岩波ジュニア新書144 和歌の読みかた

 バレンタインを前に、恋の歌は「古今集」という竹西寛子さんのことばを思い出した。和歌の恋は、苦しい恋ばかりだけど。
 恋歌もたくさん載っている『和歌の読みかた (岩波ジュニア新書)』は中高生におすすめの本。いや、中高生だけでなく大人にも、もちろん。歴史上の有名歌人の作品が一首ずつ、丁寧な解説とともに味わえる。表紙、カットが真島節子さんで、ほんわか和む。娘が「これ、かわいい!」といっていた。
 それにしても、風化しない歌評、歌論を残せるような慧眼がほしい……。
amazon:馬場あき子

The Secret River ひみつの川のものがたり

 "The Secret River"は、1956年ニューベリー賞オナーの絵本版。同作はピューリッツァー賞作家が唯一、子どもに書いた物語という。ただしこの絵本版は、原作を少し短くしたようだ。
 主人公は女の子カルピューニア。森の苦しい暮らしを救おうと、賢者のおばあさんから教えてもらった秘密の川でたくさんの魚を収穫する。森の住人たちはカルビューニアのお父さんの店で魚を手に入れ、なんとか暮らしを立て直すことができた。カルピューニアはふたたび、魚を釣りに行こうとしたが、確かにあったはずの川が見つからない……。
 必要なときに、必要なものが現れる。誰にも一度は追体験がありそうな寓話である。カルピューニアは詩が大好きな女の子なので、彼女の挿入詩がすてきだった。フロリダの美しい自然が主人公の純粋なこころと重なり、楽園での物語のようにも思えた。

The Secret River

The Secret River

amazon:Marjorie Kinnan Rawlings] | [amazon:Leo Dillon] | [amazon:Diane Dillon

Best Valentine Book: ABC Adventures くまさんのバレンタイン

 幼稚園の教室で読んでもらった絵本がかわいらしかったのでご紹介。
 みんなハッピーなバレンタインなのに、くまさんだけハッピーじゃない。だれもバレンタイン・カードを贈ってくれないから……。
 設定はよくあるバレンタインのひとりぼっち物語で、ハッピーエンドも簡単に予測できてしまうけれど、うむむ、この絵本のかわいらしさはどこにあるのかな。何となく70年-80年代っぽいキョロンとした目の動物たちと表情豊かなくまさんのキャラクター。そして、アルファベットを追いながら楽しむ、心あたたまるお話かしら。
 子どもたちが大喜びのバレンタイン・ストーリー。ああー、やっぱり。ちょっと古い絵本のペーパーバック版なので書影がない。タイトルは、"Best Valentine Book - Pbk (ABC Adventure)"。
amazon:Patricia Whitehead] | [amazon:Paul Harvey

A Dazzling Display of Dogs コンクリート・ポエトリーでつづる犬の個性

 'concrete poetry'とは「文字や単語や記号の絵画的配列によって作者の意図を表わそうとする詩」(リーダーズ英和)のこと。視覚にうったえるこの表現方法は子どもたちの間で人気があり、好きな子は詩よりもアートに重きを置いて作品を制作したりする。娘も夢中になった時期があった。
 "A Dazzling Display of Dogs"も、さまざまな犬たちの暮らしぶりや性格を「コンクリート・ポエトリー」で表す絵本。ステンシルと版画のドッキング風アートにことばが組み入れられ、洒落た印象を残す。
 日本語では、コンクリート・ポエトリーのような形態をあまり見かけない。商業広告でときどき目にするぐらいか。すでに、ひらがな、カタカナ、漢字、ローマ字の組み合わせが多様な貌を見せていて、直接的な視覚ではたらきかける必要がないからかもしれない。短歌で三行詩があったけれども、絵画的な表現ではなかったし、あれはあれで終わってしまった。空間の遠近と形を駆使するコンクリート・ポエトリーは、大文字と小文字のふたつの表情しか持たないアルファベットだからこそ生きる、西洋のアート形なのだろう。

A Dazzling Display of Dogs

A Dazzling Display of Dogs

amazon:Betsy Franco] | [amazon:Michael Wertz

Clancy & Millie and the Very Fine House 箱から生まれるイマジネーション

 なにげない日常を描きながら、イマジネーションの広がりが奥深い魅力となる絵本。それが"Clancy and Millie and the Very Fine House"だった。
 住み慣れた家を離れて都会に引っ越してきた男の子クランシー。お父さんとお母さんは新しい居住環境に大満足だけれど、すべてが広く感じられてクランシーはなじめない。外に出てみると、引っ越しで使われた大きな箱が山積みになっていた。冷蔵庫や洗濯機の入っていた箱、クッションやカーペットを運んできた箱もある。箱に触れて中に入り込んだクランシーは、四角い自由な空間がいくつも存在する「箱」の魅力にとりつかれていく。
 ここは読者の誰もが追体験に浸る場面だろう。絵本の中でも、やはり、ほらね。箱の魅力にとりつかれていたのはクランシーだけではなかった。その女の子はミリー。クランシーとミリーはいっしょに、3びきのこぶたの家でごっこ遊びをはじめる。
 わあ、これはすてきなお話だ。子どもたちにおなじみの「箱」のマジカル・パワーが、しっとりしたイラストで慎ましく、でもだからこそ力づよく描かれている。引っ越しで使われた箱の数は、子どもの視点からみると30個にも50個にも見える。現実的にはありえそうもない数の箱が現れるところでは、クランシーの空想が果てしなく広がっていく過程を見せてもらっているようである。
 楽しく愉快なイマジネーションがテーマであるにもかかわらず、全体のイメージはやさしく控えめだ。抑えた色合いの茶系を使用することにより、大人をノスタルジーに誘う知的な静謐さが漂う。この、それとなく淋しげにもかかわらず、ほんのりあたたまる落ちつきぐあいがこの画家の魅力なのだろう。新しい環境になじめずにいる少しの不安と、これから友だちといっしょに過ごす日々への希望の両者が、巧いぐあいに描かれている。
 The Children's Book Council of Australia賞に輝いたオーストラリアの絵本。 

Clancy and Millie and the Very Fine House

Clancy and Millie and the Very Fine House

amazon:Libby Gleeson] | [amazon:Freya Blackwood

Gotta Keep Reading - Ocoee Middle School 読書推進のかっこいい〜ビデオ

 本日、幼稚園のクラスで見せてもらったビデオに感動。子どもたちはリーディングの前にこのビデオを見て、「本って、楽しいんだよ!」のノリノリ気分で読書に入った。
 そのビデオはこちら。

 うちはテレビを見ないので、けっこう有名なビデオにもかかわらず全く存在を知らずにいた。2009年12月と過去のことではあるのだけれど、とにかく絵本手帖に記載。ここには「一番本読みから離れていきそうな年代(とくに男の子)に、本の楽しさをうったえるイカシタ歌とダンス」が収録されている。
 場所は、フロリダ州の中学校。読書コーチの先生が読書推進のためにBlack Eyed Peas 'I Gotta Feeling'の替え歌とダンスを思い立ち、音楽、演劇の先生といっしょに制作。体育の時間に、生徒たちに練習してもらった。しっかりコピーライトを確認してからとのことで、このあたりはさすが。このビデオ収録がオプラ・ウィットニーのテレビ・ショーに取り上げられ(2010年3月)、これにより同校は図書館の全面改築と蔵書2000冊のごほうびを受け取った。スポンサーはオプラとターゲット。シンデレラストーリーの学校版である。すごいなあ。
 知っている人はピンときたかもしれないけれど、このダンスのモデルはBlack Eyed Peas, Oprah Chicago FlashMob 24thから。学校のビデオ冒頭でリード・ダンスを担当したのは同校の校長先生。若い!
 オプラの影響力はさすがで、その後、この'Gotta Keep Reading'は全米に広まり、Youtubeには各地各校のバージョンがたくさんアップされている。

Remenbering Crystal さよならのあとで

 喪失を描く絵本。原書はドイツ語。
 年老いたカメのクリスタルと心やさしいグースのゼルダの物語。
 漉き紙、染み入りの紙、褪せた紙など、背景に使われたほんのり飴色がかった紙の質感が、哀しくも心あたたまるお話を味わい深く演出する。登場キャラクターたちの色合いも、それとなく秋色系。まさに季節でいえば秋のようにしみじみとした展開が続く。
 小さな秀作絵本。

Remembering Crystal

Remembering Crystal

amazon:Sebastian Loth