ちいさいおうちのお話

 今朝、仕事に出かける途中に気になるものを見てしまった。「売り家」の看板。しかも、「本日なら半額」とある。125th St.と19th Ave.の角、この小さな白い家には老夫婦が住んでいる。(あるいは「いた」と過去形にするべきなのか?)みごとなダリア畑があり、夏の間は、毎年のように楽しませてもらっていた。例年なら添え木が立つはずの畑には、一面青草が茂っている。
 ピンク、赤、紫、黄色、白、オレンジなど色とりどりの鮮やかなダリアの花は、子どもの心をワクワクさせる。息子が小さな頃はマーケットへの買い物は歩いて出かけていたので、帰り道はいつもダリアの鑑賞会だった。夏以外にも、きつつきが囲いの柱をつついている姿や、もぐら(畑を荒らすやっかい者だけど……)がもごもごと土の山を動かしている場面に出会ったときなど、彼は脇の土手に腰を下ろして不思議そうに見入っていたっけ。
 ここのおじいちゃんとおばあちゃんには、見かけるたびに頭が下がった。交通量が激しい125th St.にはわき目もふらず、むぎわら帽姿で畑を起こしダリアを育てる姿は、暮らしとはこういうものと教えてくれた。リンゴやナシの木もあるすてきな土地だから、気持ちを汲み取ってくれる人に買われるといい。開発業者に買収され、味気のない新しい大きな家が建ちませんように。
 思い出したのは、もちろん『ちいさいおうち (岩波の子どもの本)』。絵本の中の小さなお家は田舎に引っ越して自分の居場所を見つけたけれど、このお家には、ずっとここにいて欲しい。このあたりは昔牧場だったので、この家と土地は老夫婦が何十年もの間守ってきた、こざっぱりとした農家のこじんまりとした雰囲気をそのまま伝えている。(asukab)

ちいさいおうち

ちいさいおうち