米国暮らしの絵本手帖〜米国絵本体験、学校の中の絵本〜

 息子が小学校に通い始めて以来、興味深く映るのが、日米の学校における国語教育の違いです。これは、漢字習得目的の反復練習がどうしても必要となる日本語と、読書やリサーチを通して語彙を学び思考を深めていく英語という言語体系の性質の反映といえるかもしれません。米国には政府教育省が検定を施す教科書がないので、その分、絵本や児童書は学校教育で非常に重要な役割を果たします。楽しみとしての読書や情操教育にとどまらず、大切な学びのツールとしても機能しているのです。初等教育ではテーマに沿った絵本や児童書を通して、たとえば国語を中心に工作、音楽、数、社会(学習見学)など各教科を関連させながら授業を進める合科型学習が授業の理想として唱えられ、読書なしに学校教育は成り立たないほど書物の存在は教育の核を成しています。
 こういった教育事情が米国の絵本・児童書制作・編集者の意識に及ぼす影響は大きいでしょう。絵本・児童書自体が子どもの人間教育を支える礎になるのですから、子どもを視野に入れるならば表層的な作品は社会が求めていないことになります。絵本とは本来読み手を思いながら、誠心誠意、丹精を尽くして作るという職人気質のような性格があるとわたしは勝手に定義していましたが、その姿勢はいったいどこから生まれるのか、この国の絵本を取り巻く環境を知り心底納得しました。子供の視線を大切にし、その視界に入るありのままの姿を丁寧に描く絵本からは、何よりも子供を尊重する作り手の心が伝わってきます。もちろん日米双方に例外は存在し、これはあくまでも個人的な所見に過ぎませんが。(asukab)