四季の絵本手帖『どろんこハリー』

どろんこハリー (世界傑作絵本シリーズ)

どろんこハリー (世界傑作絵本シリーズ)

 「黒いぶちのある白い犬」ハリーが家を抜け出して遊んでいるうちに体が汚れて、いつの間にか「白いぶちのある黒い犬」になってしまう、一種の入れ替わりのおもしろさが生きたお話です。愛くるしい表紙の犬二匹の姿に思わず子どもが笑顔を投げかけるほど、イラストの親しみやすさが魅力といえます。
 お風呂の嫌いなハリーは、浴そうにお湯を入れる音が聞こえてきたとたんブラシをくわえて逃げ、裏庭に埋めてしまいました。それからのハリーの行動は、子どもの遊び心の表れとも受け取れます。家を飛び出し、どろだらけ、すすだらけ、おにごっこをしてもっと汚れ、石炭トラックのすべり台でまっくろになるやんちゃぶりは、冒険好きな子どもの気持ちをうずうずさせることでしょう。しかし、遊びほうけた後には困ったことが待っていました。家に帰ると黒い犬を目の前に、家族は誰もハリーだと気がついてくれないのです。この窮地に、ハリーは逆立ち、宙返り、ダンスや歌まで披露して自分自身を証明しようと必死になりますが、そんな懸命さが逆にハリーらしくないと裏目に出てしまいます。
 目で訴えるハリーの表情に、子どもは思わずエールを送りたくなるほどでしょう。巧みなストーリー構成の帰結では冒頭のできごとが脚光を浴びることになり、笑顔の終幕が待ち受けます。日常に戻ったハリーの安らかな表情に、読者もハッピーエンドの心地よさが存分に味わえます。(asukab)