米国暮らしの絵本手帖〜米国絵本体験、「教科書よりも、本」の理由〜

 米政府によって施される検定教科書のない理由には、個人主義自由主義、商業主義などが理由に挙げられるでしょう。個の意見を尊重するため、ひとつの方法・考えが均一に全体には浸透しません。市場の自由競争を奨励する商業主義も、政府が定めるという枠にはまらない方向にあります。もちろん、出版社はさまざまな教科書を多数発行していますが、各州教育省の学習要綱を押さえていれば、学び方は教科書を使おうが本を読もうが学校区や学校、教師により自由な傾向にあるのです。
 そのため、米国では物語などのフィクション絵本だけでなく、自然科学、技術、歴史、伝記など事実を伝えるノン・フィクション絵本が多く出版されています。このような知識を高め、思考を深める絵本は、高学年、あるいは中学生になってからも利用されます。美しい図版と専門家が執筆するわかりやすい解説は、学ぶ者としては最高の書物を手にしているという実感の湧く、質の高いものです。ノン・フィクション絵本の充実ぶりが米国の初等・中等教育を支えているとさえ、わたしの目には映ります。親もいっしょになりページを開き子どもと学べることは、読書の喜びのひとつでしょう。こちらで教師たちがよく口にする「Kids can learn, when they are having fun.(楽しさこそ学び)」が、そのまま実現されているようにも見えます。
 フィクション、ノン・フィクション絵本に関わらず、興味を抱いた絵本を通して見聞きしたり、読むイメージは色濃く記憶に留まります。親子でそのひとときを過ごせば、さらに思い出は深められることでしょう。ページを開いて始まる対話は、物ではない、記憶の贈り物を子どもに授けてくれます。長い年月を経ても消えることのない温もりを伴なう記憶を作り出すことは、誰にとっても充実したひとときであるはずです。絵本の放つ力は、こうして子どもの成長を支えてくれます。(asukab)