四季の絵本手帖『マドレンカのいぬ』

マドレンカのいぬ

マドレンカのいぬ

 犬を飼いたい女の子と街の人々との交流が描かれた、繊細で芸術的な仕掛け絵本です。
 マドレンカは犬が欲しくてたまりません。犬が欲しいと両親にねだっても、多くの子どもが体験しているように願いは聞き入れられません。あきらめきれないマドレンカが犬の本を開いていると、犬の鳴き声が近づいてきました。マドレンカは(描かれていない)犬に首輪をはめ、散歩に出かけます。パン屋のガストンさん、消防団のマクレガーさん、八百屋のエドワードさん……といったなじみの人々に出会うたび犬を自慢すると、犬好きな人、それともマドレンカの気持ちが分かる人ばかりだからでしょうか、みんなマドレンカの犬に声をかけてくれます。 
 緻密なペン画が描く街角の様子からは、不思議な感覚が呼び起こされます。ニューヨークの多様文化が凝縮されたストリートは、さながら極上のアート空間といえるでしょう。鮮やかに浮きたつ着色はマドレンカとめくりの仕掛けの中のみで、仕掛けなのか仕掛けでないのか一目では見分けのつきにくい仕掛けの趣向に、子どもの思考は捉われます。色の背景に隠された心象風景を巡っては、さまざまな幻想が広がることでしょう。視覚を楽しませる種々の工夫は知的刺激となり、時間は絵本の中で永遠に流れていきます。その延長線上に訪れる、犬に囲まれた意外なハッピーエンドは作者の宇宙的思考と重なり合い、すんなりと納得のいく帰結になっています。(asukab)