お散歩と言えば、犬 お散歩3部作(3)

 家にはシェパード+雑種の犬がいて、彼(名前はスクーター)との散歩は主人か息子の役目になっている。わたしもときどきスクーターとの散歩に出かけるけれど、愛犬といっしょに歩き、発見したことがひとつ――西洋社会で犬の存在は、社交の一部を担っているということ。車と同じで、どんな犬と歩くかで、その人のスタイルを垣間見ることができる。週末、散歩を目的にグリーン・レイクに出かければ、それはそれは犬の博覧会とも思えるような、美しく、珍しい犬たちにお目にかかれる。大きかったり、小さかったり、毛が長かったり、短かったり。たとえばグレーのビーグル犬など華奢な脚とくびれた腰が格好よくて、目を逸らそうとしてもつい見とれてしまうほど。傍らでは愛犬家同士の会話が弾む。「うちの犬は、ほんとに人なつっこいんですよ」などと。ここではスクーターとはまったく違う世界に住む犬たちが、飼い主といっしょに優雅な週末を楽しんでいる……ように見えてしまう。
 スクーターは娘が生まれる夏、妹の誕生と言う嫉妬の嵐を乗り越えてもらう目的で息子に与えた犬である。息子の遊び相手になってもらう作戦は大成功で、以来スクーちゃんは一家の一員に。動物といっしょの生活って、暮らしにさらにスパイスが加わり、とびきり愉快だ。リスや小鳥を狙って抜き足差し足忍び足で接近し、飛び込んで噛み付こうとするすんでのところで逃げられてしまう庭での光景など、何度見させてもらっても笑えるショーである。
 そんな楽しいスクーちゃんとの生活を知った者にとり、『マドレンカのいぬ』のマドレンカの気持ちは、とてもつらいところだ。でも、マドレンカはそのおかげで、普通のお散歩ではないお散歩を体験できた。彼女が街で出会う人たちも、きっと同じ気持ちを抱いた経験があったのかもしれない。不思議なイラストを眺めていると、いろんな思考が頭を駆け巡る。
 仕掛けを含めたイラストの完成度の高さには、ため息がもれる。シスの神秘的な芸術性には、これからも注目しなければ。この作品は、家では息子と娘を同時にとりこにする、数少ない絵本の一冊になっている。最初から最後まで、引き付けて止まない魅力がたっぷり。昨日の『四季の絵本手帖』春の14ページでも紹介したけれど、再登場。(asukab)

マドレンカのいぬ

マドレンカのいぬ