四季の絵本手帖『しろいうさぎとくろいうさぎ』

しろいうさぎとくろいうさぎ (世界傑作絵本シリーズ)

しろいうさぎとくろいうさぎ (世界傑作絵本シリーズ)

 森の中に、白いうさぎと黒いうさぎが住んでいました。2匹はいつでもどこでもいっしょです。ひなぎくやきんぽうげの咲く野原でなかよくかくれんぼをしたり、飛び跳ねて遊んでいました。子どもは、なかよし2匹の姿にまず安らぎを覚えます。友だちだからお互いいっしょにいたい気持ちは、そのまま自分の日常でもあるからでしょう。
 クローズアップのうさぎ、遠方に描かれるうさぎ――2匹はどこでもいっしょに描かれるので、彼らが今までにない表情で別々に登場する突然の場面に、子どもは「どうしたのかな」と不安を抱くかもしれません。笑顔は子どもの生活で重要な役割を果たすので、黒いうさぎがときおり見せる悲しそうな表情も気になるところでしょう。 
 黒いうさぎの笑顔のない表情は、幸せがいつまで続くかわからない不安から生まれていました。それならいつまでも一緒にいようと、素直に「好き」という気持ちを具現化するうさぎたちは幸せそのものです。誰にとっても、好きな人、居心地のいい人といっしょに時間を過ごすことは、人生においてもっとも大切なことに変わりありません。
 春の草花の香りがわたる野原は、「好き」の気持ちが何乗にも膨れ上がりそうな開放感に包まれています。たんぽぽの黄色がくすんだ彩色の中でひときわ目立ち、2匹のうれしい気持ちを象徴しているかのようです。(asukab)