四季の絵本手帖『おやすみゴリラくん』

おやすみゴリラくん

おやすみゴリラくん

 静まりかえった夜の動物園、管理人のおじさんが動物一匹一匹を確認しながら、「おやすみ」の一言をかけていきます。ところが、いたずら者のゴリラくんはおじさんの腰にぶら下がった鍵の束をこっそり拝借し、おりの錠を開けてしまいます。最初に自分のおり、次はぞう、ライオン、きりんのおり……おじさんの背後にはいつの間にか動物たちがずらりと列を作っていました。
 夜にもかかわらずあたりは温もりのある鮮やかな色調で描かれ、子どもにもゴリラくんたちの開放感が伝わるのでしょう。何も知らないおじさんと嬉しそうな動物たちのユーモラスなコントラストに、笑顔のまま夜の動物園に誘われてしまいます。「おやすみ」のあいさつ以外、会話は何も交わされませんが、ゆっくりと流れる時間の中には心地よい居場所があり、一度浸るとそこにずっと留まりたくなる不思議な作用を持ち合わせています。
 登場人物たちの表情の他に注目したいのは、彼らの携えている持ち物です。赤い風船は暗闇のページ以外どこでも、ふうわり芳しい夏の夜空に上っていく様子が確認でき、動物園での可愛いできごとを空から見守っています。もちろん、まっくらな寝室でのドラマも見逃せません。作品全体に絵を読む好奇心をそそる演出がたっぷりと見られ、作者の遊び心に子どもは躍るばかりです。イラストのすみずみを観察する子どもの姿を見て、大人が安らげる絵本ともいえそうです。(asukab)