四季の絵本手帖『もりのなか』

もりのなか (世界傑作絵本シリーズ)

もりのなか (世界傑作絵本シリーズ)


 余白を残して控えめに描かれた白黒のイラストが、ひんやりとした森の空気を伝える不思議な作品です。森へ散歩に出かけた男の子が、そこでのできごとを振りかえり語るという形でお話は進みます。歩いて行く途中、出会うのは昼寝をしているライオン、水浴びをしている象の子どもやピーナッツの数を数えている大きなくまといったさまざまな動物たちです。彼らは男の子に出会うなり、していたことをぴたりとやめて散歩についてきたというのですから、これは子どもにとって愉快なできごとに違いありません。髪をとかす、タオルで体をふいて洋服やくつを身に着けるなど、まるで小さな子どもの日常を再現しているような出発間際の彼らの行動にも愛着が湧きます。
 行進の列はどんどん長くなり、深い森にはささやかな活気がみなぎります。暗い森に明るい聖域が生まれるひとつの理由には、男の子による一人称の語りがあるかもしれません。誇らしげに先頭を行く「ぼく」の気持ちが子どものものとなる間にも、ひとつひとつのできごとは平明な言葉で淡々と紹介されていきます。
 大人にしてみれば現実と空想の境界線はどこにあるのか、立ち止まりふと考えさせられる作品です。森の息づかいに触れたら、誰もがこんな気持ちを持ち合わすことができるのでしょう。最後に登場する父親の一言が、結末の安堵感をさらに高めています。(asukab)