四季の絵本手帖『しずくのぼうけん』

しずくのぼうけん (世界傑作絵本シリーズ)

しずくのぼうけん (世界傑作絵本シリーズ)

 自然現象を通して、「水」の存在を愉快に描く科学絵本です。科学を扱いながらも展開は冒険仕立てなので、事実だけでは終わらない「お話」の魅力がしずくの姿を記憶に刻みます。科学とお話の両面から子どもを満足させる秘密は、愛敬のあるしずくの表情にもあるでしょう。表紙には大きな涙形の笑顔がひとつ――小さなしずくの体が飛び出せば、子どもはいつの間にか冒険に乗り出しています。
 まずは、村のおばさんのバケツから飛び出し、汚れた体をきれいにしてもらおうと病院を訪ね、ばい菌が付着しているので煮沸殺菌させられると聞き、再び外に逃げ出し……と場面はリズムのいい表現も手伝って、ページごとテンポよく進みます。
 水一滴が、雲、雨、氷、川……と形を変えて登場する場面は、子どもの生活や毎日の気象に合わせて話題になりそうです。湯気、雨雲、氷水など、親しみにあふれるしずくの表情が会話を弾ませることでしょう。小川を流れ、魚に出会い、水道を通り、洗濯機の中で回り、干された下着にぶら下がしずくの姿は、すぐに日常でも探せそうなほど身近に感じられます。
 「……それから きっと もういちど、ぼうけんの たびに でるだろう」――。最後の行を受けて終わりのない旅の続きを思い巡らせれば、しずくはたちまち生活の中で輝き始めます。(asukab)