不思議な航海

 ずっと読もうと思っていた『いまいましい石』は、夏にふさわしい作品。リタ・アン号船長の5月8日から7月12日までの航海日誌がストーリーとなる。順風満帆で進むリタ・アン号に異変が起きたのは、地図上には存在しない奇妙な島に上陸して不思議な石を持ち帰ってからだった。
 島の空気の息苦しさ、石を運び入れてからの船の異様な雰囲気……、またまたオールズバーグ・ワールドの始まりだという感じ。日誌にはその日の出来事が淡々と記されるだけなのだが、もちろんその淡々さが摩訶不思議なできごとの不思議さに静かに輪をかけていく。そして、何も無かったかのように事は過ぎ去る、ほんの少しの余韻を残して。
 息子といっしょに読む。読み終わったときの第一声が「なんか、『ジュマンジ』みたいだね」。同じ作者であることを告げると、「やっぱり」と納得していた。こういう透明感と不透明感の混じった描写って、オールズバーグお得意の巻。『ジュマンジ』『ザスーラ』のような、はらはら、どきどき度はないけれど、流れている空気は同じである。引き締まった訳とイラストが潮風を運んでくれるようで気持ちよかった。(asukab)

いまいましい石

いまいましい石