四季の絵本手帖『おふろじゃ おふろじゃ―バスタブ王ビドグッド』

King Bidgood's in the Bathtub: Book and Musical CD

King Bidgood's in the Bathtub: Book and Musical CD

 お風呂好きな王さまの喜劇は、中表紙から開演します。木桶に入った湯水を運ぶ小間使いの少年、朝から上機嫌に背中を流す王さま、困ったものだと言わんばかりに、ため息混じりで歩調を速め、お風呂場に向かう宮廷人たち――黄金色の朝焼けに包まれた、あるお城の光景です。
 ページをめくれば、王さまにお風呂から出てもらおうと思案する賑やかな相談が続きます。人物の表情をひとりひとり追うだけでも、優雅な空間に繰り広げられるドラマが読み取れます。場所は異なれど前代未聞の喜劇を前に、子どもも大人もさながら寄席に足を伸ばした気分でしょう。時代劇調の会話は奇妙なおかしさを醸し出し、新鮮な響きを伴ないます。
 途方に暮れる臣下や着飾った貴族たちはひとりずつ、お風呂から出てもらおうと王さまの関心を引きそうな案を披露しますが、王さまは逆にその提案を浴槽の中で実行してしまいます。おもちゃの兵隊や帆船に囲まれる王さま、極上の昼食を口にする王さま、釣りに熱中する王さま……、常識では信じがたいその様子が証明するように、王さまの遊び方は半端ではありません。豪快な盛り上がりぶりと凝った趣向は、イラストの緻密さと合わせ、子どもの目を堪能させることでしょう。
 上品でこっけいな喜劇は、最初から最後まで観客に笑いの渦を提供します。影のある色調が重厚なお城の質感を美しく描き、夢のような一幕を見事に映し出します。(asukab)