何だろう、このちょっぴり怖い夢のようなお話は

 センダックファンの知人から「全作品中、これが1番」と太鼓判を押された絵本が『ふふふんへへへんぽん!?もっときっといいことある』である。センダックのことだから一筋縄では行かないんだろうと、うっすらと先入観を抱いて読み始めた。
 原書タイトルは『Higglety Pigglety Pop!: Or There Must Be More to Life』。マザーグースの童謡集にある詩(うた)のタイトルということだが、この詩(うた)が童謡に仲間入りした理由が訳者神宮輝夫さんの解説でおもしろく紹介されていた。
 19世紀初頭、米国人ピーター・バーリーは「子どもにはためになる知識が必要で、フェアリー・テール(おとぎ話)などは悪影響を及ぼす」と考え、知識の本をたくさん出版していた。マザーグースの童謡など無意味でくだらないものと考えていた彼は、子どもの本の世界にマザーグース復活の兆しを見て腹を立て、「このようなうたなら、子どもにもつくれる」と侮り、自分で詩(うた)を作ってみせた。

Higglety, pigglety, pop!
The dog has eaten the mop;
The pig's in a hurry,
The cat's in a flurry,
Higglety, pigglety, pop!

 そして、皮肉にもこれがそのままマザーグースの童謡の仲間入りをしてしまった、というのだ。
 絵本の主人公は、人生何もかも揃っている白いテリア犬のジェニー。ある日、ジェニーは「たいくつだから。ここには ない ものが ほしいから。なにもかも そろっているよりも もっと いいこと きっと ある!」と言って旅に出る。こうして出会うのが、サンドイッチマンをしているぶた、牛乳配達のねこ、小間使いのローダ、赤ちゃん、ライオン……。ジェニーはさまざまな出来事に遭遇する中で、言葉の意味すら知らなかった「けいけん」を大事にしていく。
 最後は、登場人物たちが上記のマザーグースの童謡を舞台で演じて幕が閉じる白黒絵本なのだが、う〜ん、謎めいたままなので再読が必要。ペン画のイラストには、やはり影が感じられる。結びに出てくるジェニーの主人に宛てた手紙「おわかりと おもいますが、わたしは もう おたくへ もどりません。あれから たくさん けいけんを つんで、いまは とても ゆうめいです。……」は、作品のメッセージだろう。でも、ぐるぐる螺旋を描いているようで単純に自分探しの絵本として捉えていいのかどうか。センダックは単におもしろがってそうしただけなんだと思うけど。そう、息子の絵や創作などを見ていて思うけれど、とんでもない発想って別に根拠があるわけではなく、本人がおもしろいからそうしているっていうのが多いような気がする。まわりを驚かすことも楽しいみたいで。息子はどんな感想を持つか、聞いてみたいなと思った。(asukab)

Higglety Pigglety Pop!: Or There Must Be More to Life

Higglety Pigglety Pop!: Or There Must Be More to Life