四季の絵本手帖『かようびのよる』

かようびのよる

かようびのよる

 夏の一夜に起きた不可解な事件をイラストで語る絵本です。
 静まりかえった夏の宵、ガマの生い茂る沼で眠っていた蛙たちは驚きの表情を隠せません。突然、1匹また1匹とスイレンの葉に乗ったまま宙に浮きはじめたからです。時刻は火曜日の午後8時ごろ――月が昇り、まろやかな白い光が沼地を包む中、蛙の大群は街を目ざしました。
 夜空一面ばらまかれたように浮く蛙たちを見て、子どもは何を思うのでしょう。絵本の中には時刻が記されているだけで、言葉はいっさいありません。住宅地に入り、庭に干されていたシーツを首に巻きながら飛びつづける蛙もいます。目をきらきら輝かせうれしそうな顔をしていたり、スイレンの葉の上は居心地がいいという安らかな顔をしていたり、子どもは蛙たちの表情を見て、自分も空を飛んでいる気分に浸ることでしょう。
 居眠りをする老婦人の部屋には、見どころがたくさんあります。蛙たちが犬を追いかける場面も、日の出を迎え慌てて沼地に戻る様子も、細部まで緻密に描かれたイラストは写実的で見る者の目をあきさせません。ところどころにコマ割の枠が入り、全景とクローズアップを同時進行させる手法は映画の一場面以上にリアルな印象を与えます。
 文章のない絵本ですが、子どもは楽しみ方を知っています。すみずみまでイラストを眺め、自分なりの満足感を得ています。さて、次の火曜日の夜には、何が起こるのでしょう。(asukab)