四季の絵本手帖『チビクロさんぽ』

 チビクロは、黒い小犬です。お母さんはママクロ、お父さんはパパクロといいます。ある日のこと、ママクロはチビクロのためにきれいな赤い上着と青いずぼんを作り、パパクロは緑の傘と紫の靴を買いました。新しいものを手にしたチビクロのうれしい気持ちは、子どもにも経験のあることでしょう。さっそく新品を身に付け、チビクロはごきげんな気分でと散歩に出かけました。
 途中、出会うのは恐ろしいトラたちです。「おまえを たべちゃうぞ!」と迫られるたびチビクロは震え上がり、命と引き換えにひとつずつ服、靴、傘を渡してしまいました。すてきな贈り物を全て失ったチビクロは、どんな気持ちだったでしょう。トラを目の前にした恐怖と涙は、子どもの心に深く染み入ります。
 けれども、悲しいできごとの後には、思いがけないできごとが待っていました。ジャングル1のおしゃれを自慢しあっていたトラたちが勢い余ってけんかを始め、木のまわりをぐるぐる追いかけ回っているうちにみんな溶けてバターになってしまったのです。
 子どもをとらえて離さないできごとがテンポよく描かれる古典作品には、嬉しさ、怖さ、驚き、おいしさが体験できる四拍子が揃います。トラのバターで作るホットケーキ、甘い香りに包まれるハッピーエンドは、何よりも記憶に残ることでしょう。さて、チビクロは、そのホットケーキを何枚食べたでしょう。具体的な数字も、子どもの心をときめかせる魔法のひとつです。(asukab)

チビクロさんぽ

チビクロさんぽ