四季の絵本手帖『チムとゆうかんなせんちょうさん』

チムとゆうかんなせんちょうさん (世界傑作絵本シリーズ)

チムとゆうかんなせんちょうさん (世界傑作絵本シリーズ)

 船乗りに憧れる男の子チムはある日、大きな汽船に魅せられてこっそり乗船してしまいます。見つかって大目玉をくらうチムでしたが、泣きながら甲板掃除をこなした後は料理場での手伝いを皮切りに、食事の運搬、走り使い、舵手の代役……と、何でも喜んで仕事をしたので、すっかり人気者になりました。小さなチムがひとり、荒々しい海の男たちに囲まれ船上生活を送る姿は、子どもを瞬時にとりこにします。冒険好きであればなおさらで、隠れて船に乗り込んだ大胆な行動をうらやんでもいるでしょう。
 海での暮らしの新鮮さはチムも子どもも大いに魅了しますが、すべてが楽しいことばかりではありませんでした。嵐が訪れ、船底が岩にぶつかり沈没の危機にさらされると、船員たちは船酔いで寝込んでいたチムのことなどすっかり忘れ救命ボートで船を去ってしまうのです。難破寸前の船に残っていたのは、船長ただひとりです。「なくんじゃない。いさましくしろよ。わしたちは、うみのもくずと きえるんじゃ」――チムの手を握り言い聞かせる船長の一言は、涙をぬぐうチムばかりか子どもの心にも深く刻まれる強い言葉になります。船の生活は自然との闘いであり、そこには命に関わる危険が伴なうこと、そこで生きる人々がいることをチムも子どもも学ぶのです。
 実話のように語られる臨場感が、圧倒的な迫力で子どもをお話に引き寄せます。(asukab)