センダック最新作の背景

 新作『Bears』出版に際し、センダックとクラウス合作に至るいきさつが新聞*1に紹介されていた。両者の出会いは、センダックがまだ絵本について何も知らなかった50年前にさかのぼる。
 当時20歳のセンダックは、米大手玩具店FAOシュワルツのショーウィンドウ飾り付けを担当していた。店長からアートの才能を認められ、クラウス作品の編集者ウースラ・ノードストロームを紹介されると、さっそく『あなはほるもの おっこちるとこ―ちいちゃいこどもたちのせつめい (岩波の子どもの本)』でデビュー。クラウスとの出会いがきかっけとなり絵本製作に一歩を踏み出した画家センダックは、その後絵本の世界に新しい時代を築き上げていく。
 クラウスと彼女の夫クロケット・ジョンソン*2は「人生における天使」のような存在となり、代表作『かいじゅうたちのいるところ』にも大きな影響を及ぼしたそうだ。夫妻の型にはまらない発想が、センダックの自由奔放な作風とぴたり合ったということだろう。今回、編集者からクラウス作品のイラストを持ちかけられたとき、頭に浮かんだイメージは男の子マックスで、くまに囲まれたマックスの冒険が27語の世界に繰り広げられることになった。
 この記事のインタビューでセンダックが再度触れていたのが、リンドバーグ事件*3のこと。6月10日で77歳になったそうだが、このことは機会あるごとにいろいろなところで言及されている。老年を迎えた今でもまだフラッシュバックするイメージがあるとは、幼児期に受けた傷の深さを思い知らされる。「お金持ちの異教徒の子どもが生きながらえないんだから、貧しいユダヤ人の自分が生きていけるはずがない」と昔のトラウマを振り返った。人生に覆いかぶさったトラウマは、絵本の影、闇に色濃く映し出される。
 生涯独身で通したセンダック。「子どものために作品を描いているわけじゃない」と言っているが、それはとてもよくわかる。(asukab)