四季の絵本手帖『カポックの木―南米アマゾン・熱帯雨林のお話』

カポックの木―南米アマゾン・熱帯雨林のお話

カポックの木―南米アマゾン・熱帯雨林のお話

 
 子どもにとり、緑深いジャングルは大きな興味の対象です。中でも南米アマゾン熱帯雨林は色とりどりの動植物が生きる、自分の日常とかけ離れた規模の生態系が広がる神秘の森として映ることでしょう。
 その熱帯雨林の森で男がひとり、巨大なカポックの木を斧で切り倒そうとしていました。大木はとても硬く、とても1人では手に負えそうにありません。疲れ果てた男は根元に腰を下しました。圧倒的な緑の量は、男ばかりでなく読者である子どもの目をも奪います。森の息づかいは、たちまち男を深い眠りに誘い込んでしました。すると、木々や葉の陰から男の様子をひっそりと見入っていた動物たちが待ちかねていたかのように1匹、また1匹と姿を現します。彼らは眠りに落ちた男を囲み、木を切らないで欲しいと願いを打ち明け始めました。
 「……自然のいとなみにくみこまれて、助け合って生きている」「……根が死ねば、大雨が降ったときに土が流される」――蛇、ミツバチと蝶、猿の群れ、オオハシとインコ、キノボリガエル……、カポックの木の大切さを知る動物たちは、それぞれの思いを伝えます。子どもは森の主たちの真剣なまなざしから生態系を守る意味を理解するばかりでなく、彼らに敬意さえ抱くことでしょう。最後に語る先住民の少年の一言は、男だけにでなく文明社会全体に発せられた重みを持ち合わせます。
 1本のカポックの木を巡るお話は、命の根源となる森の存在を静かに伝え、文明のあり方を深く問い続けてくれます。(asukab)