四季の絵本手帖『みどりの船』

みどりの船 (あかねせかいの本)

みどりの船 (あかねせかいの本)

 田舎で過ごす夏休みがたいくつになってきた頃、姉弟が屋敷の庭で見たものは植木を刈り込んで形作った船でした。古い切り株の上には船室に見立てた小屋があり、えんとつ、マストも付いていました。乗船してみると中には本物そっくりのかじ、棚には制服を着た男の人の写真と望遠鏡が置いてあります。突然2人に声をかけたのは1人の老婦人、船の持ち主トリディーガさんでした。水夫長を称する庭師を加えた4人は親しくなり、夏の日々、7つの海を目ざして出航します。
 少年の一人称で語られる冒険の数々は、太陽の下、まぶしく描かれます。花壇はイタリアの遺跡、椰子の木はエジプト、寒い日は北極――見立て遊びの冒険は、聞いているだけでも子どもの心をワクワクさせることでしょう。快晴が続き熱くなってくると、今度は熱帯に向かっての航海です。赤道を越える際の儀式、のどを潤すライムジュース、そして嵐を迎える最後の夜……目を閉じれば、誰の脳裏にも夏の光、ジュースの冷たさ、風の音、全てがよみがえってくるかのようです。ときおりトリディーガさんが会話の中で船長と呼ぶその人は、彼女の亡夫なのでしょう。イマジネーションに遊んだ日々は、4人の心に豊かな夏の思い出を残していきました。
 広がる想像力の楽しさと、最愛の人の死という現実を巧みに合わせ描く、希代の絵本です。子どもの心にも、大人の心にも、それぞれの形で輝く時間が永遠に流れていきます。(asukab)