四季の絵本手帖『おやすみなさいおつきさま』

おやすみなさいおつきさま (評論社の児童図書館・絵本の部屋)

おやすみなさいおつきさま (評論社の児童図書館・絵本の部屋)

  • 作者: マーガレット・ワイズ・ブラウン,クレメント・ハード,せたていじ
  • 出版社/メーカー: 評論社
  • 発売日: 1979/09
  • メディア: 単行本
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 うさぎの坊やがベッドに入り、眠りに落ちるまでを描く古典絵本です。子ども部屋には風船やおもちゃなど、今日という1日を楽しませてくれたいろいろなものが見えます。夜を目前にした安らかな子どもの気持ちは、万国共通だからでしょう。暖炉の火が揺れる中、やさしい語りが部屋の様子をゆっくりと紹介していけば、韻を踏んだ心地よい言葉でつづられる原書と同様、日本語でも静かな時間の流れが十分に味わえます。
 緑と赤の独特な配色で描写する部屋の全景ページと、白黒で対象物をひとつずつクローズアップするページを交互に表す趣向は、子どもに記憶の糸をたぐらせます。壁にかけてあった絵、テーブルに置かれていたくし……と、イメージに残るものを思い起こし、まるでゲームのように部屋の様子を鑑賞しはじめるのです。
 1枚ずつベールが降りるように空間が明るさを失うごと、うさぎの坊やは眠りの世界に誘われていきます。静まりかえった暗がりに暖炉の灯だけがともる部屋を見て、子どもも深い夜の訪れを感じ取ることでしょう。まわりに告げる「おやすみ」の一言は、就寝前のささやかな楽しみになるかもしれません。
 原色と白黒、全景とクローズアップ、部屋の変化と灯りのともり方といった小さな変化が時間の流れを絶妙に表現し、子どもを眠りに誘う静かな夜をたたえています。(asukab)