四季の絵本手帖『まーくんとくま』

まーくんとくま

まーくんとくま

 大切にしている物をなくしたときに味わう失望は、誰にとってもつらいものです。自分の体験を振り返れば、子どもも、大人も、主人公まーくんが大事なくまのぬいぐるみ「くまくん」を森でなくしてしまった気持ちは十分に理解できるでしょう。
 まーくんは暗い森にひとり、なくしたぬいぐるみを探しに戻りました。しばらく進むと、そこで目にしたものは、自分より何倍も背丈のある巨大なくまのぬいぐるみでした。まーくんは、「『くまくん』たら どうして そんなに おっきく なっちゃったの? これじゃ だっこが できないよ」と話しかけます。小さなまーくんと、巨大なくまのぬいぐるみ――大小不思議な光景に何か愉快なことが起こる予感がするのでしょう、子どもの心はいつの間にかワクワクしはじめます。すると、どこからかすすり泣くような声が聞こえてきました。「どうして こんなに ちっちゃく なっちゃたの? これじゃ だっこが できないよ」――。これは一体、誰の声でしょう。
 その後に目撃する「大きい」と「小さい」の一幕は、驚嘆、歓声、笑いを誘うできごとで、子どもにユーモラスな視点の転換を促します。人間とくまの相対関係、サイズの大小を織り上げた巧みな想定は、家に逃げ帰りベッドに潜り込むまーくんとくまの対照によりあらためて全貌が明らかになります。主人公たちの語り分けをはっきりさせると、とてつもなく楽しい演出が可能です。(asukab)