四季の絵本手帖『へびのクリクター』

Crictor (Reading Rainbow Books)

Crictor (Reading Rainbow Books)

 動物との暮らしは心休まるものですが、その動物がもし大きな蛇だとしたらどうでしょう――。主人公のクリクターは、毒のない蛇です。ルイーズ・ボドさんという婦人といっしょに、フランスの小さな町で暮らしていました。もしクリクターが犬や猫など一般的なペットであれば、この作品は普通の絵本だったでしょう。日常性に欠ける蛇という存在は子どもが喜ぶ一番の魅力となり、展開を盛り上げていきます。
 ボドさんのクリクターへの愛情は、まるでわが子に注ぐようでした。ほ乳びんでミルクを飲ませ、寒くなると長いセーターを編み、やしの木を飾った部屋には長いベッドを用意してあげました。そんな光景はおもしろおかしく、子どもは蛇への違和感などすっかり忘れてしまいます。蛇の特異性は恐怖を抱かせる対象かもしれませんが、ペン画で描かれるクリクターは愛嬌たっぷりでむしろ子どもに親しみやすさを振りまきます。
 先生であるボドさんといっしょに学校に行ったクリクターは、細長い体を使ってアルファベットや数字を示したり、滑り台や縄跳びの縄になるなど、ユニークな変身ぶりを披露し、生徒はみんな大喜びです。こんな蛇くんがいてくれたら、どんなに楽しいでしょう。
 月夜の晩に起こった事件で大活躍するクリクターは、学校だけでなく町中の人気者になりました。蛇らしさを利用した勧善懲悪ストーリーは、子どもにしてみても気持ちのいいものです。(asukab)