四季の絵本手帖『きりのなかのはりねずみ』

きりのなかのはりねずみ (世界傑作絵本シリーズ)

きりのなかのはりねずみ (世界傑作絵本シリーズ)

 野いちごのはちみつ煮を手に、はりねずみは友だちのこぐまを訪ねようと、霧の森を進みます。夜の森を舞台に繰広げられるはりねずみの小さな冒険は幻想的で、子どもに夢想すら思い起こさせます。
 はりねずみは小さく、森の生き物たちは大きく――霧の中での登場人物は誇張とも思えるくらいのサイズで表され、不思議な存在感を生み出します。大きな目玉のみみずく、清らかな白馬、光るように踊る銀色の蛾……、出会うものたちはどれも浮かび上がるように美しく描かれ、じっくり見入ってしまうほどでしょう。丹精なイラストは影や空気、幻影を交えて目に見える物と見えない物を暗示しているかのようで、子どもが夢か幻か境界線を見失ったとしても不思議ではありません。静まりかえった夜に響く擬態語の数々――「パシャパシャ」「ホーホッホー」「カサッ カサッ ファー」「クリン クリン クリン」――は、静ひつな空間をさらに際立たせ、繊細な子どもの感性に染み入ります。
 驚くこと、嬉しいこと、怖いこと……さまざまな気持ちを体験しながら、はりねずみはこぐまの家をたどり着きます。静寂と変化が青、白、グレーを基調に夢のように表現された後には、落ち着いたあたたかい帰結が待ち受けていました。はりねずみ、こぐまの表情はあどけなく、森の住人の幸せな暮らしぶりを伝えます。2匹が星を眺める後ろ姿は、永遠の幸福の形として心に残ることでしょう。(asukab)