四季の絵本手帖『ぼく、お月さまとはなしたよ』

Happy Birthday, Moon (Moonbear)

Happy Birthday, Moon (Moonbear)

 音の反響「やまびこ」の妙を利用して、主人公クマくんの純粋な性格が描かれたお誕生日向けのかわいらしい作品です。ある夜のこと、空に明るく浮かんだ黄色い月を見て、クマくんはお月さまにお誕生日のプレゼントをしたいなと思います。川をわたり、森を抜け、山に登ってお月さまにお誕生日を尋ねると、お月さまはクマくんが尋ねた内容と同じことを返すだけでした。クマくんとお月さまの間で交わされる会話は、実は「やまびこ」でクマくん一人のものです。そうとは知らないクマくんの一生懸命な姿は、子どもにとってユーモアを通り越して感じる愛しさの対象であるに違いありません。こっけいだけれど、クマくんの気持ちを十分に理解するのです。
 お月さまは帽子が欲しいことを知ったクマくんは、貯金箱のお金を全て使って、きれいな黒い帽子を買います。お月さまに帽子を渡そうとする場面、帽子がどこかに飛んでいってしまった場面、どの場面にもクマくんの清らかな気持ちがそのまま描写され、子どもは素直にクマくんの優しさに引き込まれていきます。帽子をなくしてしまっても最後まで幸せなクマくんの笑顔には、充足感が感じられます。
 作品全体にわたる静かで澄んだ空気が、クマくんの声をまっすぐ子どもに届けているのかもしれません。輪郭のはっきりとしたイラストが、親しみを込めてかわいい一人芝居を描いています。(asukab)