言葉の力と戦争

 『おとなになれなかった弟たちに…』は、中学1年生の教科書で出会った。ひもじさに負け弟のミルクを隠れて飲んでしまう少年(作者)の、戦時回想記である。
 幾度となく頭にイメージの浮かぶ場面――。空襲が激しくなってきたので疎開の相談をしようと親戚を訪ねただけだったのに、うちには食べ物がないと突き返され、そのときに見せた母親の表情――「強い顔でした。でも悲しい悲しい顔でした。ぼくはあんなに美しい顔を見たことはありません。ぼくたち子どもを必死で守ってくれる母の顔は美しいです。」――栄養失調で死んだ赤ちゃんの弟ヒロユキを小さなお棺に納める際の母親の姿――「小さな弟でしたが、棺が小さすぎてはいりませんでした。母が、大きくなっていたんだね、とヒロユキのひざをまげて棺に入れました。そのとき、母ははじめて泣きました。」
 当時を振り返り語る言葉は強く、やさしく、情景を浮かべるだけで涙が止まらない。言葉の力をこれほど強く感じた文章はなかった。
 スミソニアン誌8月号が終戦60周年を記念して特集を組んでいた。読者手記にかなりのページを割き、各自の戦争が回想される。わたしは実際の戦争を知らないが、大人になれなかった多くの子どもたちのことを思えば、戦争とは何かが即座に感受できる。子どもが、戦争を教えてくれる。(asukab)

おとなになれなかった弟たちに…

おとなになれなかった弟たちに…