四季の絵本手帖『にぐるまひいて』

Ox-Cart Man

Ox-Cart Man

 米国ニューイングランド地方の古き良き時代の生活ぶりが、1家族の四季を通して淡々と語られます。収穫の秋を迎え、1年をかけて家族みんなで作った物――羊の毛を刈り取り紡いで織ったショールや手袋、しらかばのホウキ、畑の収穫物、りんご、はちみつ、かえで砂糖――が荷車に乗せられます。父さんは牛を引いて10日がかりでポーツマスの市場に向かい、荷車や可愛がっていた牛を含めた全てを売り、そのお金でお土産を買い、また10日がかりで家路を急ぐのです。待ちわびていた家族はお土産をもとに、再び次の秋に向けて手仕事を始めます。
 自分で作らなくてもこと足りる時代にあって、全てを一から作り出し家族が力を合わせて暮らしを支えた昔の生活は美しさ以外の何ものでもありません。女の子が編み物や刺しゅうをし男の子がナイフで木を削って生活の営みに加わる光景は、子どもにとって新鮮な驚きでしょう。1年を通して描かれる生き方は堅実で、同時に素朴な温もりを与えてくれます。お土産を手にしながら家に向かった父親の充実感は計り知れません。同じ気持ちを今の時代に味わうことは、難しいことかもしれません。
 暮らし、家庭、幸せとは何か……ともすれば忙しさを理由に現代人が忘れかけている心の原点が、1ページごと丁寧に示されます。生活は厳しくても豊かな気持ちで日々を過ごしていた人々に、心から敬意を表したくなる絵本です。(asukab)