四季の絵本手帖『すきですゴリラ』

すきですゴリラ (あかねせかいの本 (12))

すきですゴリラ (あかねせかいの本 (12))

 親の愛情を求めているのに、しっかり向き合ってもらえない女の子の寂しさ、願いのかなった嬉しさが、ゴリラとの交流を通して描かれるユニークな絵本です。ハナはゴリラが大好きな女の子です。でも、まだ本物のゴリラを見たことがありません。お父さんは忙しくて、ハナを動物園に連れて行ってくれる暇がないのです。絵本を読むのも、朝食を取るのも、何をするにもお父さんとの会話はなく、ひとりぼっちのハナ――冒頭のハナの姿から、子どもは「ひとり」の寂しさを実感します。「いそがしいから、いまは だめ。あした、あした」――ハナとの時間をないがしろにするお父さんの姿には、大人の身勝手さ、冷たさが表れます。
 ところが、お誕生日の前の晩、ゴリラに会いたいというハナの気持ちが通じたのか、真夜中に不思議なことが起こりました。プレゼントのおもちゃのゴリラが本物になり、ハナを動物園に誘ってくれたのです。ハナとゴリラのお出かけは、彼女の深層心理の表れかもしれません。あるいは、夢とも考えられます。それでもハナは生まれて初めての楽しい体験を満足のうちに終えるのでした。
 親の知らないところで子どもはこんな風に感じているのかもしれない……、そう気付かされる心理描写が作品全体を覆います。ハナのゴリラ好きを示す部屋の飾りや小物が愉快であると同時に悲しくも映りますが、帰結に待ち受けるあたたかい場面は子どもの憂いをさわやかに救ってくれます。(asukab)