クイル賞ノミネート絵本を読む#2 禅ワールド

 『Zen Shorts (Caldecott Honor Book)』(邦訳『パンダのシズカくん』)は、3つのお話を通して禅思想を伝えるという絵本。語り手であるジャイアント・パンダのスティルウォーターさん(静水さん?)は、江戸時代後期の臨済宗妙心寺派の禅僧、仙突豪`梵(せんがいぎぼん)(1750年−1838年)がモデルになった。タイトルの「ゼン・ショーツ」とは、ぶかぶかの大きなパンツをはいているから下着ショーツかと思いきや、禅思想の(短い)簡略版という意味を込めたそう。
 メアリー・ポピンズのように傘を持ちながらやってきたスティルウォーターさんは、アディー、カール、マイケルの兄弟に禅のたとえ話を披露する。アディーには「月と盗人」のお話。(中に出てくるモデルは良寛和尚。)カールには中国古事「人間万事塞翁が馬」、マイケルには「横柄な娘を背負って川を渡った僧侶」の話を聞かせた。
 作者の水彩デッサン力は極上で、墨絵で表現されるたとえ話のイラストが禅の簡素な雰囲気とよく合っている。残念な点は「塞翁が馬」のイラストが昔の中国ではなく、現代の米国を描いているところ。3話ではすべて動物が擬人化されているが、ここではうさぎの農夫や息子がオーバーオールを着ていて、兵士たちは明らかにヘルメットをかぶり星条旗を掲げた米兵。息子が落馬で怪我をして休むところではリモコン使用のテレビ鑑賞という体裁で、あれれれ?と疑問だった。禅ワールドを描くのであれば、全体を包み込む統一されたスタイルが必要では。古事が出てきたのも、わたしには違和感だったかなあ。墨絵が美しいだけに、お話の選び方が非常に惜しい。米国では禅の簡素な生き方を子どもに伝える絵本として通るのかもしれないけれど、アジアの視点で見るとちぐはぐな箇所がいくつかある。
 作者はトルストイの哲学を子どもに説く絵本『The Three Questions』も出している。作品としては、こちらの方がまとまっているかも。この絵本は、実は何年か前、地元高校の教室で出会った作品だった。(他にはポラッコの『Chicken Sunday』がいっしょに置かれていた。)高校で話題にする絵本だもの、注目しないわけにはいかない。さっそく読んでみて、なるほど、人生哲学のつまった絵本であることを知った。3つの答えは非常にシンプルで納得のいくものである。日頃、いつも心に覚えておきたい。(asukab)

  • 禅の教え子ども版

Zen Shorts (Caldecott Honor Book)

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  • 人生でもっとも大切な3つの質問の答えとは?(トルストイの教え)

The Three Questions

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