四季の絵本手帖『歯いしゃのチュー先生』

Doctor De Soto

Doctor De Soto

 腕利きネズミの歯医者さんチュー先生の歯科医院はいつも満員です。小さな患者は椅子、大きな患者はそのまま床に座ってもらい、今日もチュー先生は奥さんを助手に大忙しです。小さなネズミという動物が大きな動物たちの治療に臨む光景は、ユーラモスの一言で語られます。はしごをかけたり滑車を用いて宙づりになりながら大きく開けた患者の口の中に入り奮闘する姿は、ちょっとしたスペクタクル映画の体裁で、子どもの顔がほころぶ場面でしょう。
 チュー先生はネズミなので、ネコやその他の危険な動物の治療はお断りです。ところがある日、虫歯を痛がるキツネが治療を申し入れてきました。もちろん断りましたが、泣きながら痛みにうめくキツネの姿に負け、とうとう患者として受け付けることにします。 
 痛みで弱っているといえども、キツネはキツネです。チュー先生が大きく開いた口に入ると、本能にくすぐられ何やらキツネの目つきが怪しくなってきました。ネズミ対キツネ、襲われる側と襲う側――自然界の構図が小さな歯科医院を舞台にくっきりと浮かび上がり、何が起こるのか子どもの心もドキドキ緊張しはじめます。チュー先生とキツネの表情を追うだけでも、ドラマのありようが理解できるでしょう。
 息の匂いが伝わってきそうなキツネの口に入り込み、誇りを持って仕事に打ち込むチュー先生はプロ意識に燃えています。子どもはそんなチュー先生の姿から、はつらつとした心意気を感じているにちがいありません。(asukab)