四季の絵本手帖『たくさんのお月さま』

Many Moons

Many Moons

 お姫さまの欲しがったお月さまを巡って、哲学を説く可愛らしいお話です。
 木苺のタルトを食べ過ぎて病気になったレノア姫は、「お月さまがほしい」と願いました。王さまは娘のためにお月さまを手に入れようと必死になります。大臣、魔法使い、数学の大先生を呼び、月が手に入るか尋ねてみますが、答えは揃って不可能の一言。月の大きさや距離に関しては、3人の説明はそれぞれに異なりました。頭を抱えた王さまが道化師を呼び悩みを打ち明けると、道化師は「みなさん、かしこいかたばかりです。だからたぶん、みなさん、正しいのでしょう」と答えます。みんなが正しいとなれば、「月」はそれぞれが考えるとおりの大きさや遠さになるので、当のレノア姫が月をどのようにとらえているのか尋ねてみようということになりました。彼女の考える月は、「おやゆびのつめより、ほんのちょっと、小さいくらい」の大きさで、「まどのそとの大きな木のてっぺんくらいのところ」にあるというものでした。
 大きなことと小さなこと、難しいことと優しいこと、辛口と甘口――。レノア姫と王さま、お城の重鎮らのやりとりから、読み手はこんな対比を頭に思い浮かべるかもしれません。気難しい顔をして天文学的な数字を述べたり、からかいを交える偉い人たちの姿は、あたかも清らかな心を見失った大人を皮肉っているかのようにも見受けられます。探し物は一人一人違うことを王さまに伝えたのは、一歩離れてことの次第を見守った道化師でした。子どもは彼の柔軟な対応に、頼もしさと期待を抱くことでしょう。
 主人公のレノア姫は、もうじき11歳です。子どもにしてみても、この年齢に達する頃に深く味わえるお話なのかもしれません。(asukab)