米北西部の生き方

 家族4人、2泊3日のキャンプ休暇に出かけた。テントと義兄のキャンパーで宿泊した地は、州北西部オリンピック半島の東端に位置する人口8千人の小さな港町ポート・タウンゼンド。鉄道が敷設されず開発されなかったことが幸いして、ビクトリア朝の優雅で古い建物が時代を越えてそのまま佇む街である。美しい海岸と緑深い森に加え、映画『愛と青春の旅だち [DVD]』のロケ地としても知られている。
 森のテント暮らしは快適だった。朝夕のキャンプファイヤーは、みんないつまでもいつまでも火を眺めていたくてなかなか終わらない。これを「火遊び」と呼ぶのだろうか。こんな機会でなければできないこと――薪を棒でつついたり、転がしたり、持ち上げてみたり(もちろん寄せ石の囲いの中で)――をして炎のさまざまな姿を見つめていると、引き込まれながらも同時にやけに落ち着いてしまい次の行動がおっくうになってくる。この3日間は西部開拓者、いや、もっとさかのぼり、北米先住民の生活に思いを寄せながら火を起こし、暖を取り、明るさにほころび、森で見つけた枝だの、海岸で拾った石だののおしゃべりに花を咲かせた。夜になれば天上には手を伸ばせば届きそうな距離に星が散らばり、流れ星や衛星の軌道が確認できる。火や星、宇宙の質問が飛び交い、わたしは生徒になったつもりで息子と主人の会話に耳を傾けた。もちろん、焼きマシュマロのパリパリ、トロ〜ンの甘い愉しみも忘れない。キャンプ地は義兄の私有地なので、キャンプ場とは異なるまわりに誰もいないプライベートな環境はありがたかった。
 ネイティブたちは、きっとこうやって火を囲むのだ。労働がなければ、たぶん1日中のんびりと。ヨーロッパ移民がやってきて米国は一見それ風に味付けされたけれど、たとえばここ、聖なるベーカー山を目の前にした風光明媚な内海と島と森の国はずっと彼らのものだった。薄いブルーのグラデーションとなった海の色は島々の間を縫って透明に広がり、静けさが優しさとなり人間を包み込むようだった。何も抵抗しない穏やかな自然に囲まれると、車に乗り、フェリーでやってきた自分たちの存在がいたたまれなくなる。何か大切なものを汚してしまった気持ち……と言えばいいか。子どもたちの心には、自然との正しいあり方が刻まれましたように。
 娘の好きな米西北部先住民に伝わるお話が『Raven: A Trickster Tale from the Pacific Northwest (Caldecott Honor Book)』(邦訳『RAVEN(レイバン)光をもたらしたカラス』品切れ)。太陽のない世界で暮らす人間を気の毒に思ったレイバン(カラス)が光を取り戻そうとするお話だ。彼らのストーリーには、さまざまな動物がシンボルとして登場する。動物との関係が大切にされていたことは、自然の摂理の中では当然だった。このキャンプでは、野生の鹿の親子とあざらしに出会えた。(asukab)

Raven: A Trickster Tale from the Pacific Northwest (Caldecott Honor Book)

Raven: A Trickster Tale from the Pacific Northwest (Caldecott Honor Book)