シェイクスピアの時代にタイムトリップ

 秋雨の煙る日曜日、サッカーの試合は大敗。ミッドフィルダーにもかかわらずあまりボールが回ってこなかった息子は試合後、「寒い〜」を連発。帰宅してさっそくホットシャワーにした。振り返れば、確かに試合も「寒い」内容だった。
 夜にはちょっと長めの停電があり、キャンドルライトに囲まれて夕食をとる。その後はもちろん、暖炉に火を入れて「気分はキャンプファイヤー!」である。パリパリ、トロ〜リの焼きマシュマロが欲しいところだったが、あいにく残っていない。ということで、近所の方から早々といただいたハロウィンバスケットからひとつずつお菓子を選び、揺れる炎を眺めながらマシュマロの甘さと交換した。
 電気のない生活は、ただひたすら静けさにおおわれる。闇の中で静寂に包まれると、何かしら宇宙的な力が体に宿るような錯覚さえ起こす。「火」など囲んでしまえば、さらに。「ほんの少し前までなら、世界中ほとんどの人々がこういう静けさを味わっていたはず」と主人が子どもたちに話していた。みんなで、昔――いつの頃かわからないけど――の人々の気持ちに浸る。
 息子のために注文した絵本に、『Boy, The Bear, The Baron, The Bard (New York Times Best Illustrated Books (Awards))』があった。中学生になりシェイクスピアを読み始めるだろうと思い、古典紹介には最適だとずっと目に付けていた作品だ。文字なし絵本だが、男の子とクマと貴族と吟遊詩人(シェイクスピア)の繰り広げるドラマは、エリザベス朝のロンドンを克明に再現する。画面はコマ割りで、ドタバタ捕り物帳のようなコミック仕立てが息子にぴったり。時代の風に吹かれながら16〜17世紀の街中、風習が垣間見れる、懐古の楽しみの詰まった絵本といえる。
 当時の作品を読んで時代背景を知り、そこに生きた人々の息づかいを感じたり、気持ちを共有すること――言語に関わらずこれが古典学習の醍醐味だと思うのだが、この喜びが息子にも伝われば……、というより、この喜びを息子といっしょに味わえたら、これ以上望むものはない。
 グローブ座は夏の間、毎日午後4時に開演したことを息子に伝えると、さっそく中表紙に描かれた時計が午後3時35分だと指差してくれた。そうそう、そういう目で当時の人々がどんな風に暮らしていたかを見ていくと、興味はさらに湧いてくる。古びた劇場にサッカーボールを蹴り入れてしまった男の子の冒険は、不思議なタイムトリップとなって、シェイクスピアの生きたロンドンの街に誘ってくれる。生首が見世物にされたロンドン塔の光景は、ハロウィンにもお似合い。
 停電をきっかけに昔の暮らしに想いを馳せたが、時間を越える感性がこうやっていつも持てたらいいなと思う。(asukab)

Boy, The Bear, The Baron, The Bard (New York Times Best Illustrated Books (Awards))

Boy, The Bear, The Baron, The Bard (New York Times Best Illustrated Books (Awards))