アートスタジオとハロウィンのねずみ

 娘は毎週木曜日をとても楽しみにしている。理由は、アートスタジオ(彼女曰く「ねずみさんの学校」)に行く日だから。今日はハロウィン関連の制作に取り組んだようだ。子どもたちのおしゃべりには、コスチュームの話題も挙がったらしい。終了後娘は、ねずみマークのスタジオに通う自分が「ねずみ」になることを非常に誇りに感じたようで、「だって、ねずみさんの学校に行ってるから」と繰り返し、喜んでいた。
 そこで夜は、かわいい家ねずみ(マウス)とは違うけれど、ねずみ(ラット)の絵本『That Pesky Rat』(邦訳『ペットになりたいねずみ』)をいっしょに読む。ねずみ好きの息子も加わった。
 薄汚い小路のゴミ箱に住んでいるのは、人間のペットになりたがっているねずみ。ポテトチップスの空き袋をベッド、出し殻のティーバックを枕にしながら、「名前」で呼ばれるペット生活を夢見る。友だちのチンチラシャム猫、たれ耳うさぎ、スコッチテリア犬たちは、人間との暮らしは楽じゃないと教えてくれるけど、それでも思いは募るばかり。そしてある日、ねずみはペット屋さんに貼り紙をする。「茶色のねずみ、飼い主募集中……」。果たして、飼い主は現われるだろうか。
 ラットって、主人公のねずみには申し訳ないけれど、実はずっと気味の悪い動物という印象があった。あの「とんがった鼻と目つき、ギザギザの歯」が受け付けないのかな。とくに威嚇するときなど、ぞっと寒けを感じさせる容貌になる。大きさが猫ぐらいというのも、怖さを植えつける要因か。伝染病のもとになったりもするし。(……何だか、悪いことばかり……。)ビル街の下水溝から出てくるところを何回か目撃したことがあり、原書タイトルのように「That pesky rat!」と呼ばれる理由は当然理解できる。でも、ゴミ箱暮らしを続けながらも健気に自分の想いを伝える彼の姿を見てしまうと、否定的なイメージはどこへやら。子どもたちといっしょに、瞬く間にファンになった。チャイルドのコラージュ、実写を交えたイラストレーションがねずみの心情を素直に伝え、胸を打つのである。クラリスビーンやチャーリー&ローラシリーズよりも、作者の魅力が味わえる作品じゃないかな。構図と活字の配置で遊ぶ感性が、「ローレン・チャイルド、ここにあり!」と主張しながらモダンで粋でユーモアたっぷりの作品を完成させた。ネオン街を背景にした表紙のねずみが、チャイルド・ワールドに誘っているよね。もしかするとネオンじゃなくて、憧れの自分の居場所を御殿のように描いた心象風景なのかもしれない。結末の落ちが可愛くて、心が温まる。
 息子にはおなじみの絵本だったけれど、読後、彼はねずみの手書きによる飼い主募集の貼り紙をもう一度確認していた。「cat」と「rat」とは、フォニックスの練習にもぴったりではないか。ここ、日本語ではどうしてるんだろう。単純に頭韻法で「こ」と「ずみ」かな。
 「ハロウィンまで、あと4日!」と浮かれる娘にしてみると、マウスもラットもまったく同じのようだ。月曜日は、スタジオでもイベントがあるとのこと。せっかくねずみさんになるのだから、行ってみようか。(asukab)

That Pesky Rat

That Pesky Rat