戦争と本

 土曜日の午後は、友人のビーチハウスで鮭のバーベキュー。子連れではなかったので、短い時間だったけれどゆっくりさせてもらった。この海岸沿いの別荘は、1920年来のものだそう。紅葉と海岸風景が美しい。ため息。わたし以外の5人はみな独身で若いので、会話を傍観していることが多かった。でも、こういう息抜きもあっていいかな。この空間に浸れるだけでもいい。持ち寄ったフィエスタ・サラダのドレッシングがちょっと苦くて残念。これは、ライムのせい。苦味がなければ乙な味なんだけど。
 帰宅後は息子を連れて、教会のかぼちゃくり抜き会へ。畑で育てた50個余りのかぼちゃをくり抜き、日曜礼拝の際サイレントオークションにかけて売るのである。大きなものは100ドルぐらいで売れるので、日曜学校の資金調達としては高収入になる。わたしと息子はがんばって、合わせて10個のかぼちゃをくり抜いた。角をつけたり、舌を出したり、変わった顔になるように心がけ、親子で没頭した。
 さて、息子のハロウィンの衣装は、頭巾付きの黒いドレス+(なんと!)サダム・フセインのマスクである。(ティム・バートンじゃなかった!)こういう政治関連の仮装は心配だ。誰かが気分を害さなければいいのだが。だからだったのか、どうなのか、土曜の朝に息子と読んだ絵本は、イラク戦争での実話を語る『The Librarian of Basra: A True Story from Iraq』だった。
 本作品は、2003年7月27日付ニューヨーク・タイムズ紙に掲載された記事をもとに制作された。アリア・モハメド・ベイカーは、バスラ市中央図書館の司書。米国によるイラク攻撃が始まり、戦火はバスラにも広がりそうだった。700年前に執筆されたマホメット誕生記など、図書館には貴重な蔵書が収められている。書籍移動を政府に頼んでも何も支援してもらえないことから、彼女は自分で図書の移動を開始した。 
 コーランによると、神がマホメットに語った最初の言葉は「読め」だったそうだ。尊い言葉である。このわずかな一言に、人間のあり方が示される。アリアさんは、その意味を十分に理解していた。作品には、砲撃開始前、本を守ろうと行動を起こした様子が淡々と描かれる。「米国のイラク攻撃を批判し、左翼を育てる絵本」といったような批判が見受けられたが、「本」を守る行為自体、政治思想やイデオロギーなどとは関係なく人間の行う当然の行動ではないか。(サラエボが廃墟となった冬、燃料不足のため大学図書館の本を燃やして越冬する報道がなされた。「『世界で1番高価な火』で冬を越す事実を忘れてはいけない」という言葉に、やはり「本」の人間に与える意義が語られていた。)
 作者は、画家ジョージア・オキーフの生涯を記した『私、ジョージア (詩人が贈る絵本 II)』や911同時多発テロ事件でのエピソードを伝える『9月のバラ (世界子ども平和図書館)』のジャネット・ウィンター。伝記やノンフィクション絵本を多く手がける作家で、画風が明瞭、淡白。作品は子どもにわかりやすい。(asukab)

  • 砲撃の下で、本を守る

The Librarian of Basra: A True Story from Iraq

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  • ひとあし先に出版された、高学年向き絵本

Alia's Mission: Saving the Books of Iraq

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