家なき犬
紹介していただいた絵本を娘と読む。『Mutt Dog!』とは、野良犬のこと。絵本には1匹の野良犬の奔放で哀愁おびた生きざまが、都会の片すみに暮らすホームレスの姿といっしょに描かれる。娘から「シェルターって、何?」と聞かれたので、家のない人たちが食事をしたり、寝泊りしたりするところと説明した。軽いタッチのペン画が街角や野良犬の表情を親しみいっぱいに描くからか、重いテーマにもかかわらずメッセージは端的に伝わってくる。
日本では日雇い労働者の町で、シアトルではいくつかのシェルターで給仕の手伝いをしたことがある。後者の体験から、ホームレスは都市部では当然の社会事情という認識を感じた。つまり、コミュニティーがめんどうを見るという姿勢である。前者の場合は悲惨だった。自治体は厳冬期に簡易宿泊施設も保障せず、彼らを街から占め出そうとしていた。20年も昔のことだけど、今はどうなのか。シアトルはクロンダイク・ゴールドラッシュの際、一攫千金を夢見た人々をアラスカに送り出し、一文も手にできず惨めな思いで戻ってきた彼らを温かく迎え入れた港町として知られる。ホームレスに寛容な懐の深さは歴史的にも裏づけられている、と主人が言っていた。
本書は、犬が主人公の絵本。野良犬くんの姿を追うだけで、愛着が湧いてくる。でも、わたしにはホームレスの姿の方が印象に残った。理由のひとつは、絵本に出てくる街がオーストラリアのシドニーだからか。ここには2年近く住んでいたので、気になったのかもしれない。描かれている地域は、ダウンタウンからキングス・クロスのあたり。シドニー・タワーが見えたりして懐かしい。読み終わった後、何度もイラストを確認して南半球の港町に思いを馳せた。(asukab)
- 作者: Stephen Michael King
- 出版社/メーカー: HMH Books for Young Readers
- 発売日: 2005/09/01
- メディア: ハードカバー
- この商品を含むブログ (1件) を見る