「大人の絵本」とうたう絵本

 まず絵本『Where's My Cow?』の元となる小説『Thud! (Discworld)』を読んでいないので、たぶん絵本鑑賞は半分ぐらいの味わい方しかできていない。それでも、英国屈指のストーリーテラー、プラチェットの描く絵本版ディスクワールド(=空想世界)には十分ひきつけられた。なんてったって絵本なので、作家に負けない画家の力量は言わば必須。その使命がみごとに果たされているので、1ページ目から奇妙で不思議な世界に入り込めたのだと思う。中世とビクトリア期を思わせる仮想空間が舞台になる。
 毎晩、司令官サム・ヴァイムスは6時になると1歳の息子サムに絵本を読んでいる。それは、(この絵本とまったく同じ)『Where's My Cow?』。サムの大のお気に入り絵本だ。「うしは、どこ?/これは、うしかな?/メエエってないているよ/これは、ひつじ/うしではありません」――。パターンに乗って、小さなサムはうれしそうに動物の鳴きまねをする。このときの親子の表情が傑作で、これにまいってしまう読者はきっと多い。ところが父親は何を思ったことか、この絵本に疑問を抱き始める。息子の日常に関係のない農場の風景ばかりが描かれ、実際の都市生活が描かれていない、と。息子が生きていくために街を描いた絵本が必要だということで、次の夜、サム・ヴァイムスは「父ちゃんは、どこ?」でお話を切り出した……。
 きっと、小説を知っている人には抱腹絶倒となる作品なんだろうな。街での様子がまた笑えるので、小説を読んでから絵本を開くのがいい。謳い文句がすでに「大人の絵本」ということで、ブラック・ユーモアの好きな人向きの絵本。ちょっぴりセンダックとウィーズナーを彷彿させるイラストだった。(asukab)

Where's My Cow?

Where's My Cow?