自分さがし

 息子と『オレゴンの旅』を読む。ある夜、道化師のぼくは、オレゴンという名のくまといっしょにサーカス団を抜け出す。エゾ松の美しい森に帰りたいというオレゴンの願いをかなえてあげようと思ったのだ。鉄鋼の街ピッツバーグからシカゴまでバスに乗り、そこからはヒッチハイク。とうもろこし畑を渡り、ロッキー山脈を越え、目指すのはオレゴン州の森。……クマと道化師の旅は、いつの間にか、自分さがしの旅になっていた。
 ある程度人生経験のある大人が読んだら、涙になるかもしれない絵本。米国の風景を透明感とヨーロッパ的な哀愁とともに描いた手腕は、作者たちがベルギー人という証明だろうか。サーカスの道化とくま――さびしい者たちが本来の自分を取り戻そうと大平原を渡る姿には、人生を振り返る哲学が描かれる。こういった深さは、全体を包む詩的な空気により濃度が高められたといえるだろう。たとえば、表紙のイラストとなったページに記された2行はこんな詩。

ぼくの赤い髪は風になびいて、
ぼくは突っ切って行く、ヴァン・ゴッホの風景のなかを…… もっと美しい場所へと。

 詩的な表現に加え、作中出てくる文章にはパンチのきいたメッセージ色の濃い表現が多い。たとえば、アイオワに向かう途中、乗せてくれた黒人のトラック運転手スパイクと道化師ぼくの会話。

スパイクがぼくにたずねました。「なんであんた、赤いハナつけておしろいなんかぬってるんだね? 舞台の上でもないのにさ。」
「顔にくっついてとれないんだ。小人やってるのも楽じゃないんだよ…」
「じゃあね、世界一でかい国で黒人やってるのは、楽だと思うかい?」

ぼくたちふたりは、よく似ています… ぼくは何も言えませんでした。

 描かれるオレゴン州の自然はノースウェスト地方の雄大な自然そのもので、ここに、つまり当地にくまのオレゴンが帰ってきたのかと思うとうれしくなる。最後の、雪の降る光景など渋くて思わずほろり、そしてほっこり。たまたま合唱クラブのピアノ伴奏で「The Rainbow Connection」(セサミストリートに出てくるかえるのカーミットが歌う歌)を練習しているのだけれど、何だかこのメロディーが絵本にぴったりで弾くとぽつり情景を思い描いてしまう。
 人生って何なのか、オレゴンの絵本を開くたびに教えてもらえるのだった。子どもたちが大人になったら再び開いて欲しい作品かな。(asukab)

オレゴンの旅

オレゴンの旅