ヨーロッパ中世という時代

 小学校の図書館で目にして以来、チェックリストに入れていた絵本に『The Pied Piper of Hamelin』があった。ひきつけられた理由は、何といってもイラストである。チェコ生まれの画家が描く線画による中世の町には、不思議な臨場感が漂っていた。ネズミとかかわる人々の姿から人間の内面が抉られるようににじみ出てきて、何百年も前のことなのに、たとえば体臭とか町のにおいとかが伝わってくるようなリアルさを携えているのだ。
 グリム童話にもあるので物語はよく知られているけれど、この伝説的な民話は史実というから驚きである。そこで、「ネズミを追い払った笛吹きに何の報酬も与えなかった町人たちに下った罰」――1284年6月26日、ドイツのハーメルンの町から130人の子どもたちが失踪した事件――をどう解釈したらいいのか、と考える。主人は、封建時代、王侯以外ほとんどの人々が貧困のうちに暮らしていたことと、子どもの社会的地位の低さに言及した。貧窮する暮らしに支障がきたせば(多くの場合がそうなのだが)子どもは7、8歳ぐらいから家を追い出され、集団で助け合って生きていた。子どもの養育という発想がなかった時代に現れた笛吹きは、子どもを可愛がる心優しい人だったんだろう、ということだった。つらい生活などもういらない、楽しいおじさんについていきたい、とみんなが幸せを求めていっしょに町を後にしたんじゃないか、という考察。思わずうなずきながら聞き入った。納得。子どもの人権が叫ばれはじめたのはつい最近のことだし、今だって劣悪な環境下で暮らしている子どもはたくさんいる。娘は民話としか受け取っていなかったが、息子は史実と知りどう感じただろう。
 他作家の同名絵本も読んでみたいなと興味が湧く。本作品は詩の形体なので、娘には散文として紹介するほうがよかったかもしれない。(asukab)

The Pied Piper of Hamelin

The Pied Piper of Hamelin