帽子の中に広がる空間

 以前から読んでみたいと思っていた『Milo's Hat Trick』を息子と読んだ。
 ミロは落ちぶれた手品師。何をやっても失敗ばかりだった。劇場支配人のポポビッチ氏は、翌晩のショーで帽子からウサギを出せなかったら首だ!とがなり立てる。しょんぼり森にウサギを探しに行ったミロだが、そこでウサギのかわりにクマを捕獲した。ミロが身の上を打ち明けると、クマはウサギから教えてもらったという手品を披露する。帽子の中に飛び込むと、あら不思議。クマはすっぽり体ごと入ってしまい、顔だけをのぞかせた。「こんなこと簡単だよ。骨がゴムだと思い込めばいいんだ。ウサギに教えてもらったトリックさ」――。頼もしい助っ人に出会え、ミロは大感激。「手品ショーのとき、口笛を吹いてくれ。そうすりゃあ外に飛び出すからさ」とクマは得意げに話し、帽子の中で身を休めた。クマを帽子から取り出すなんて、こりゃすごい! ミロは喜び勇んで街に向かったが、途中電車の中で帽子を取り間違え、クマの入った自分の帽子をなくしてしまう。(あ〜あ……)
 何をやってもうまくいかないミロと、根っから気のいいクマ。明暗コンビが人生の浮き沈みを物語る作品は、なんとなくユーモラスな物悲しさに包まれる。肩を落としたミロの姿の寂しいことといったらない。加えて眼球の描かれない彼の表情が貧相で、「イラストがあまり好きじゃない」とつぶやくと、息子が「ユニークだよ、かっこいいじゃん」と弁護した。でも、お話はすごくおもしろいのだ。子どもたち――それも小学生――の間で人気が高いのもうなずける。ミロと逸れたクマがどうなるのか、後半に向けて涙と笑いのドラマが展開される。
 人気の秘密って、帽子の中に広がる空間を感じ取る「感覚」じゃないかと思う。骨がゴムだと思えばこんなことができる、という不思議な感覚が子どもを魅了するのでは。未知の空間に対する憧れや好奇心が想像力の目覚まし時計になり、大人をも帽子の中へと誘ってくれる。(asukab)

Milo's Hat Trick

Milo's Hat Trick