歯が抜けた!

 夕食前、「ママー!」と叫ぶ娘の甲高い声がしたので振り返ると、下唇を血まみれにした笑顔があった。「抜けたのー?」と聞くと、得意げにうなづいている。どれどれ、見せて。特等席とばかりに手のひらに乗せられた小さな白い歯は、まるで米つぶのよう。これで娘も小さな子どもじゃなくなっちゃうんだ、なんて思いながら、口をゆすぎにバスルームに走る姿を見つめた。
 ところが夕食後、悲しいことが……。電気を消そうと手を伸ばした際、握っていた歯を落としたらしい。家族総出で四つんばいになり、目を凝らして捜したけれど見つからない。「ねずみさんが持って行っちゃったのかも」なんて言っても気が紛れず、『マドレンカ』を読んでも気が散る様子だった。そうよねえ、あれだけ楽しみしていたのに。
 娘の最後の決断がかわいらしかった。歯の妖精に手紙を書いたのである。「Dear Tooth Fairy, I am sorry I lost my tooth. Here is a map to show you where I lost it.」(マップ付き)
 翌朝、手紙がなくなっていて、枕の下に1ドル紙幣を見つけたときは大喜び。ところがしばらくして、何かおかしいと感じはじめたらしい。1ドル紙幣は奥歯が抜けたときで、それ以外の歯のときはダイム(10セント)とりんご1個なのだそうだ。そこで、再び手紙を書く。「Dear Tooth Fairy, Did you really give me a dollar? (Yes or No) Did you find my tooth? (Yes or No)」
 「I think Daddy gave me a dollar.」と彼女は言っているのだが、今宵の主人の反応は如何に。歯をなくしたので妖精が来なかった、と自分の非を認めている姿勢にちょっと感心した。
 歯の絵本は、昨年4冊*1ほど紹介していた。(asukab)

マドレンカ

マドレンカ

*1:歯科検診を終えて 2005年5月25日