はたらきもののあひるどん

 『はたらきもののあひるどん (児童図書館・絵本の部屋)』は、1羽のあひるどんを通して描く労働搾取の絵本である。
 農夫ののらくらどんは、その名が語る怠け者。農場の仕事は何一つ手に付けず、していることといったら、ベッドに大きな図体を横たわらせ、新聞開いてチョコレートキャンディをほおばって、あひるどんに向かって「しっかり やってるかね?」って聞くことだけだった。こんな調子だから、あひるどんはすべてをこなさなければならず、朝から晩まで働き通し。「ぐわっ!」と返事をしながら涙ぐましい日々を送る姿を見て、農場の動物たちは話し合いをした。「もおおっ!」「めええっ!」「こけっ!」……。
 「ああ、野麦峠」ならぬ「ああ、農場人生」労働哀歌は、オクセンバリーの柔らかで味わい深い水彩画に表れる。動かないのでどんどん太っていくのらくらどんとやつれてフラフラのあひるどんの対照がしなやかな筆致で動き出すように浮かび上がり、お芝居を見ている気持ちにもなった。食事を運び、薪を切り、畑を耕し、お皿洗いに、アイロンかけ――。さらに農場の仕事もこなすあひるどんの日課に、思わず一昔前の女性像を思い描いたりも。作者はいったい何を言いたかったのだろう。児童、女性の労働搾取、それとも植民地支配か。いろいろなイメージがかけめぐった帰結は、意外にさらりと閉じられた。
 何を言われても「ぐわっ!」と答え、素直に働いたあひるどんに拍手を。動物たちの素朴なコミュニケーションも必見である。これを生き生きと描いた絵の豊かさに脱帽というところかな。日本語の親しげな語り口調もよかった。
 息子は原書『Farmer Duck』で既読だったが、娘といっしょに邦訳を楽しんでくれた。あひるどんの仕事振りをどう思う? 作者の言いたかったことって何? そこを聞きたかったのだが、お天気がよく、読み終えたら即、外に飛び出して行った。この質問は夕食時に。(asukab)

  • 邦訳の書影がないので、原書ペーパーバックで

Farmer Duck

Farmer Duck