蝶々といっしょに舞う紙人形のおひめさま

 春だから読みたいなという絵本がクレヴェンの『The Paper Princess Finds Her Way』。『Paper Princess』(邦訳『わたしのおひめさま』)、『The Paper Princess Flies Again: With Her Dog!』から成る、紙人形のおひめさま3部作の真ん中の1冊である。まだ肌寒いシアトルだから1日でもぽかぽか春めいた日になると、ふんわり絵本の紙人形のように宙に舞ってみたい気持ちがムクムクムク。蝶々といっしょに空を旅するなんて、どんなにすてきな体験だろう。
 紙人形を作った女の子も大きくなり、もうおひめさまといっしょに遊ばなくなってしまう。ペーパーウェイトを乗せられ、たんすの上に置かれたおひめさまの顔はどことなく淋しそう。森の絵が描かれたドレス、星がいっぱい付いたくつした、スイカのしま模様のくつ、虹の冠はどれも色あせ、おひめさまが輝いていた遠い日々を懐かしんでいるように見える。「おそとにでかけ、あたらしいおともだちにあえたらなあ……」。そんなおひめさまの願いをかなえてくれたのは、女の子の家の犬だった。
 こうしておひめさまの冒険は、犬、猫、赤ちゃん、おもちゃ、天使、蝶々……との出会いを経て、(南米に通じる作者らしく)メキシコの地まで続く。毎度のことながら、クレヴェンの水彩と切り絵を合わせたコラージュが美しくてうっとりした。
 彼女のアートの特徴は、過程を楽しむ姿勢がそのまま伝えられる点だろうか。芸術に対する2つの視点――結果か過程か――。彼女の場合、これは文句なく後者だと思う。素朴でときに子どもらしさを感じさせる無造作、無作為な作風に、鑑賞者の感性は知らぬ間にくすぐられてしまう。親しみやすさ、懐かしさ、温かさが、一見未完成のような無邪気さとなって人間的な魅力をたっぷり伝えてくれるのだ。
 コラージュって偶然のたまものみたいなところがあるから、作品は100%完成でなくていい。そこに魅せられるのだと思う。南国での陽気なハッピーエンドも、この作品の特別さを物語っている。(asukab)
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  • 紙人形のおひめさま3部作の2冊目

The Paper Princess Finds Her Way

The Paper Princess Finds Her Way