静かなたまごたち

 ため息がでるほど繊細で華麗でカラフル――。『An Egg Is Quiet』(邦訳『たまごのはなし―かしこくておしゃれでふしぎな、ちいさないのち』)は、鳥、爬虫類、両生類、昆虫、魚のたまごを美しい水彩画で紹介する、科学とアートがドッキングしたノンフィクション絵本である。自然がそのままで美しいことは、『ひとしずくの水*1で実感したことだけど、息子とこの絵本を開きさらにその気持ちにうっとり浸ることができた。たまごの形って完璧の美をまとっていて、それだけで見とれてしまうことがよくある。だから、資料としての生物画は科学に必要不可欠であると同時に、ありのままの姿ですでに凛としたアートなのだった。
 ところが「科学=アート」というネイチャーアートの公式が成立する絵本は、まじめなだけじゃなかった。遊び心もちゃんと生きていて、子どもをどんどん引き込んでいく。たとえば、中表紙の59個のたまごにご注目。後半にそこから生まれた59の鳥や動物、虫が描かれていて、マッチングゲームを楽しむというエンタテイメントのおまけ付きだった。久々に目を輝かせながら「これ、楽しい!」と夢中になる息子を見て、ほっこり心が和んでしまったり。
 虹のグラデーションを利用しながらたまごの色を紹介するページは、わたしのお気に入りである。どのページもきれいだけれど、ここにくるとぽわんとたまごに見とれている自分がいる。
 それにしても、この上品であたたかな「きれいさ」の理由は何だろう。解説や見出しが手書きでノスタルジックであること。見出しが詩的な響きを伴い、科学的視点から丁寧に語る文章と絶妙の均整を保っていること。インクの柔らかい茶色が優しいアート空間の隠し味であること。たまごの色、形、大きさ、手触り、成長過程を伝える事象がそれだけで生命賛歌につながること――。とにかく、おすましじゃない、ぬくもりのあるページは目にしていて心地よかった。
 タイトルの「An Egg Is Quiet」は、卵が孵る前の静寂を表す。息を凝らして見つめていると、「パリン!」。殻が破られた瞬間から、新しい生命をたたえるにぎやかな鳴き声に包まれる。
 科学の知識、ゲーム、アートがいっしょに楽しめる一石三鳥の絵本。シルビア・ロングって、お話絵本でよく見かける画家だが、こういう絵も描くことを知り新鮮な発見だった。(asukab)
amazon:Sylvia Long

An Egg Is Quiet

An Egg Is Quiet

*1:ひとしずくの水 2006年4月23日