悠久の時を知る魔よけ獅子

 『The Little Stone Lion』(邦訳『ちいさなこまいぬ』)は、言葉少ない語りかけ故に深く心に染み入る秀作絵本。わたしの知る中国絵本は台湾の作品がほとんどだったけれど、この作品は中国本土出身、北京在住作家によるものだ。だからなのかどうなのか、描かれる風景全体が風雨に耐えた土塀のような色に覆われていて、ページを開くだけで悠久の時に浸ることができた。
 主人公は、小さな石の獅子。魔よけとして村の人々を長い年月にわたり守ってきた。その獅子が村の子どもの成長を見つめ、長老の哀しみを知り、人々を守ってきた日々を懐古し、胸の思いを伝えていく。
 時間を意識せずにはいられない絵本である。理由は、中国の伝統画法を用いているであろう絵のくすんだ色合いと、流れた時を知る石の獅子の存在にある。「村人は わたしのことを 忘れてしまうかもしれない。でも、わたしは けっして 忘れない。ここで暮らした人々のこと ここで起きたことを」――。この一言に、すべてを包み込む大きな心とそこから生まれる安らぎが感じられた。
 猫よりも小さい獅子をクローズアップして描く冒頭の大胆な構図でまず獅子に魅せられること請け合い。石のはずなのに、表情を変えながら独白する姿も愛しい。各見開きの言葉は少ないけれど、少ないからこそ伝わる絵本。熱いお煎茶といっしょに、ほっと落ち着きたいときに開くといいかな。息子よりもわたしが夢中になっていた。(asukab)

The Little Stone Lion

The Little Stone Lion