山椒魚の部屋――サラマンダー・ルーム

 原書タイトル『The Salamander Room (Dragonfly Paperbacks)』をそのまま訳したら、何やら純日本文学みたいな題名になった。これも息子が大好きだった1冊。ページをめくる、というより表紙を目にした瞬間から引き込まれるファンタジーに、彼もわたしも酔いしれた。繁る葉の匂いと木漏れ日に包まれながらゆっくりと森の時間を生きているサラマンダーの姿は、それだけで魔法のように思えた。
 主人公は枯れ葉の下にサラマンダーを見つけたブライアンという男の子。好奇心から家にもって帰り、部屋でいっしょに暮らそうとする。そんなブライアンに、お母さんが話しかける。サラマンダーの生きる環境は人間と違うのよ、と諭すかのように。お母さんの気遣いをよそに、ブライアンの気持ちは森へ、自然へと向けられていき、部屋は少しずつ緑の生態系へと様相を変えていく。
 母と子の会話は、小動物を思う気持ち、自然への敬愛、親子の温もりにあふれ、ときどきひんやりとした木々の息に触れるようでもありしっとり心地よい。こういう体全体が包み込まれるような詩情って、なかなか味わえるものではないと思う。
 イラストは、大好きなジョンソン&ファンチャー夫妻によるもの。渡米したばかりの頃だったので、当時は作者や画家が誰なのかも知らず、ただその夢のような森の描写に見とれていた。「これが米国の絵本なんだ」と強烈な印象を受けた絵本だった。
 息子が、このオレンジ色サラマンダーのプラスチック模型を持っているんだった。どこに隠れているのかな、最近目にしていない。(asukab)

  • ペーパーバック

The Salamander Room (Dragonfly Paperbacks)

The Salamander Room (Dragonfly Paperbacks)