ナツメグと魔法のスプーン

 『カクレンボ・ジャクソン』に魅せられて、『Nutmeg』を購入した。お鍋やスプーンなどキッチン用品といっしょにマジカルな風に巻き込まれている表紙のナツメグがとってもかわいらしかったし。
 ところが表紙の印象とは裏腹に、見返しの光景はうたた荒涼たるもの。壊れたストーブ、歯車、古びた椅子、鋼の煙突――。片隅にちょこんと座っている三つ編みおさげのナツメグにも笑顔が見られない。かたわらのひまわりの花でさえ灰色がかり、ブリキの花のように咲いているものね。ナツメグは廃品のゴロゴロする海岸沿いの地に、いとこのネスビット、ニコデモおじさんと暮らしていた。朝ごはんは「ボール紙」、お昼は「ひも」、夕ごはんは「木くず」。毎日毎日おなじ食パン、ヌードル、ごはんを食べていたら嫌気が差し、そんな味がしてくるのでしょう。ごみに囲まれた居間でナツメグは宣言する。きっと、何かを変えたいという気持ちを抱きながら。「おさんぽに いってきます!」。入り江に出たナツメグは、潮に乗って流れてくるビンを拾い上げた。コルクの栓を抜くと、摩訶不思議。もくもくした煙といっしょに中から不思議な大男が現れた。
 ……この大仏さまのような大男は3つの願いをかなえてくれるのだが……。わたし個人としては、ここでちょっぴり幻滅。ささやかな上質ファンタジーに入り込めるのかと思っていたから、魔法使いの大男の存在はあまりにもディズニー的? しかし、注文ばかりつけていても始まらないので、ここで自分が創作を試みる。

 ナツメグがビンのせんをあけると、中に3つのたねと小さな木のスプーンが入っていました。ひとつはカボチャ、もうひとつはお豆、のこりはにんじんのたねです。いっしょにそえられてい手紙には、こう書いてありました。「たねをまき、畑を作ってごらんなさい。そうしてカボチャ、お豆、にんじんがとれたら、木のスプーンでお料理してごらん」。

 ナツメグはさっそく家に帰り、ネスビットといっしょに土をたがやし、種をまき、水を与え、畑を作り始めました……。

 畑作りは人間にとって生きる糧だし、とくにこの季節は誰もが味わいたいさわやかな労働である。少なくとも、安易な魔法使いより子どもに身近な作業だと思うけどな。
 作者は何を描きたかったのだろう。こういう環境下に住む子どもたちを思いながら作品に取り組んだことはよく伝わってきた。そこで現実にどうしたらいいかという踏み込んだメッセージがあればよかったんじゃないか。身体的な感覚に訴える何かがあればよかった。ちょっと説明的なページもあったけれど、大男以外、イラストはやはり魅力的なのだ。キャラクター設定も光っているし、後ろの見返しも夢があって素敵だから、もう少し、子どもと環境の親密さに触れるストーリーになればよかった。(asukab)

Nutmeg

Nutmeg