やさしくておいしい、はじめての詩

 『Orange Pear Apple Bear』は、淡い水彩と4つの言葉がイメージ遊びの楽しさを教えてくれる絵本。表紙を目にしただけで、作品を包むやさしい透明感が伝わってくる。ふんわりと心地よい言葉遊びは、オレンジ(Orange)、なし(Pear)、りんご(Apple)、くま(Bear)、そして最後の一語(There)を通して果実の香りさわやかに、「おいしい単純性」と「純粋な戯れ」のひとときに誘ってくれる。
 果物って、子どもにとても近い。色も形も香りも味も子どもとなかよしなので、わたしと子どもたちの記憶は絵本から視覚が飛び込んできた瞬間、ほっぺがピンクで手がぷくぷくだったちっちゃな赤ちゃん時代に飛んでゆく。『はらぺこあおむし エリック=カール作*1*2と同じ効用だけど、あちらは「穴と色」で、こちらは「音と連想」で赤ちゃんを魅了する。
 まず最初に、英語のレッスンのように、対象物とその音が1ページごとに紹介される――「Orenge」「Pear」「Apple」「Bear」。次に「Apple, pear」(りんごの上になし)「Orange bear」(オレンジ色のくま)。こうして白を背景に描かれた対象が、ページをめくるごとイメージ遊びに導き始める。形と色とイメージと……、おもわずため息の出るシンプルゆえの清らかさと楽しさよ。ころんと転がり出しそうな果実の感触、瑞々しい水彩の色合い、幸せそうなくまの表情、どれも赤ちゃんを喜ばせるのに十分な魅力を放つ。
 一生懸命絵と現実をつなげようと見入る赤ちゃん時代に1番楽しめる詩遊び絵本だと思う。柔らかな心へのプレゼントに贈りたいな。マンゴ色の布背表紙も、手作り風の懐かしさを思い起こしてくれた。グラヴェット*3にますます注目。第3作も楽しみ。
 蛇足としてもうひとつ。英国の絵本は無駄がなくていい。つまり、カバー・ジャケットがないので、フラップの作者紹介文などがつかない。この絵本では裏表紙の内容紹介文も簡潔でいい。(「売ろう!」という米国風商魂が見えない。)情報の貴重さはわかる。あれば興味が湧くし、確かに別の本も読んでみようかなという気にもなる。でも、ときに、そういう情報とは隔絶されたい気持ちになるときもあるっていうこと。この時間も忘れたくないな。そりゃ、○○賞受賞作とか立派な勲章なのだろうけれど、そういうものが何も付かない(あっても付けない)作品に浸りたいと欲するときがある。余計なものがないから、さらに興味が湧く、という感じかな。「Less is more.」だろうか。アートで絡めた絵本であれば、さらに。この文章に対しても自嘲を込めて「Less is more.」(asukab)

  • わたしが購入した版は、ほぼ正方形に近い形

Orange Pear Apple Bear

Orange Pear Apple Bear