子ども時代の「ちいくまくんとおおくまさん」

 子どもたちの小さな頃に出会っておきたかった絵本がある。それはワッデル作「ちいくまくんとおおくまさん」シリーズ。ちいくまくんの1番新しい絵本(シリーズ5冊目)『Sleep Tight, Little Bear with DVD』(邦訳『ぐっすりおやすみ、ちいくまくん (児童図書館・絵本の部屋)』)を手にして、そんな風に思った。米国版付属のDVDに、作者ワッデル自身がシリーズ誕生の背景を紹介し、作品朗読する光景が収録されていて、画面に見入るだけでやさしい気持ちになれた。
 愛しい絵本の作者は、やはり愛しいおじいちゃんだった。『Owl Babies』(邦訳『よるのおるすばん (児童図書館・絵本の部屋)*1)で初めてワッデルのことを知り、こんな風に親子の愛情を描ける作者ってどんな人だろうとずっと興味を抱いていた。この絵本、当時息子のプレスクールで子どもたちから絶大なる支持を受けたナンバー1の人気絵本だったし。ワッデルの絵本は、お酒であれば吟醸酒、歌であればユニゾンみたいな絵本だろう。魂を揺さぶる核をそのまま描き、いとも簡単に読者を引き込んでしまう。見せ技とか意図的な飾りが何もなく、ありのままで十分美しいということは、生き方も美しいということである。中心のずれない生き方をしている。それは幼少期、豊かな自然に囲まれ両親・家族の深い愛情に育まれたことが、どう考えたって作用している。自分の子ども時代を思い起こし、両親を思い起こし、自分が父親になり子どもと触れ合ったことを思い起こし、孫と遊ぶ。心の根底に流れるあたたかい家族愛が「ちいくまくんとおおくまさん」を生み出した。
 海岸沿いの石壁のある古い家に住むワッデル。ふかふかの大きな椅子に座り、うれしそうに最新作を朗読する姿は、子どもが好きで好きでたまらないおじいちゃんを証明していた。自分だけのほら穴を見つけたちいくまくんの喜びが描かれた最新作。娘に贈ろうかなとさっそく邦訳版をアマゾンカートにぽいっ。米国に帰ってきたら、ワッデルのように読んであげようと思った。
 子どもを知る人なら、共感の嵐が吹きまくるシリーズである。(asukab)

  • 米版はシリーズの背景を紹介するDVD付き

Sleep Tight, Little Bear with DVD

Sleep Tight, Little Bear with DVD

*1:3羽の子ども心 2005年6月30日