SEVEN SIMEONS 1938年オナー 王さまとシメオン7兄弟

 デューダ王さまは富と権力を持ち、しかも賢く美男子です。でもまだ美しいお姫さまを迎え入れていないので、不幸せで悲しい思いをしていました。ある日、水兵たちからもっとも相応しい姫は航海に10年かかるブーザン島に住んでいることを教えてもらいました。往復だけで20年。考えるだけで、王さまは沈んでしまいました。
 しょんぼりしていても始まらないので、王さまは狩に出かけることにします。馬に乗りお供といっしょに野を越え森を抜けていくと、黄金色をした美しい麦畑が広がっていました。「こんなにすばらしい麦を育てるとは、たいしたものだ。いったい、誰の畑なのか探し出すように」。王さまの前に連れてこられたのは、シメオンの7人兄弟でした。兄弟たちは父親からそれぞれに秀でた技を授けられていました。

 ロシア民話『Seven Simeons』は、王さまのお姫さま探しのお話である。民話がもとになっているので展開はときに都合よく、正直行きあたりばったりの感もある。でも耳を傾ける子どもとしては、7人兄弟の活躍、王さまの人柄、お姫さまの存在など、おとぎ話的なストーリーの流れにすっと引き込まれていくだろう。加えて何よりも、繊細でエレガントなカラー線画のイラストが絵本の価値を高めている。黒、赤、緑、一見金色に見える茶色おびた黄(ロンドン・ゴールド)の4色が石版印刷されていて、ため息ものの美しさなのだ。登場人物たちの表情もかわいかったり、おとぼけで、時代を経ても輝きを失わない理由は、この絵本に関してなら「イラスト」にあると思った。左ページ一面にイラスト、右ページに文章のパターンが続くので、読者はあきることがない。中表紙、裏中表紙に一筆書きによる月と太陽の線画があり、息子はこれをおもしろそうになぞっていた。
 表紙は山吹色(当時、この色って人気があったのだろうか。『Four and Twenty Blackbirds: A Collection of Old Nursery Rhymes』も同色だった)、そこに黒、緑、赤のリトグラフで赤い馬にまたがる王さま、手をつなぎ王さまを仰ぐシメオン7人兄弟が描かれている。兄弟は全員同じロシア風の服装――編み上げの靴、腰で紐を結ぶ襟無しの上着――に、ビートルズみたいな長めのおかっぱ頭。みなうりふたつで、ここで読者を魅了し始めるのかもしれない。お話はハッピーエンドでめでたし、めでたし。最後に作者もちらりと登場するので、リアルに感じられたりする。残念ながら、書影なし。手にしたのは、1966年12月第3版。(asukab)